「キャロル」:映像と女優は魅力的だけど
映画『キャロル』は、1950年代を舞台にしたということではなく、映画らしい映像の魅力で物語を語っていく手腕において、オールド・ハリウッド的な良作。そして圧倒的に「二人の女優の映画」となっております。
衣装や美術の力を得て、時代再現が素晴らしいです。そう、トッド・ヘインズ監督の『エデンより彼方に』がそうだったように。でも映像や色彩設計はあの作品のようにポップ&キッチュではなく、落ち着いた美しさです。でもやはり、この絵作りに惚れ惚れします。映像に格調とコクがあるのです。いわゆる上質な「映画らしい映画」だと思うんですよね。
ルーニー・マーラがとってもラヴリーなのですが、各種チェック柄に彩られた彼女の服装も実にキュート。時として色柄過剰でダサくなっているあたりも含めて、いい感じです。
一方のケイト・ブランシェットは、堂々の貫録。でも一目惚れするほど魅力的なのかというと、それはどうなんでしょ? まあ、人の好みは色々ですから・・・。
でもこの二人の恋愛の発展に、意外とコクが無かったのも事実。徐々に心の距離が近づいて行ったり、ドキリとしたり、燃え上がったりの描写が割と通り一遍で、そここそが映画の勝負どころとすれば、ちょっと物足りない結果となっております。まあ、小生のベスト・フィルムがワイラーの『噂の二人』なので、この手の作品には点が厳しいのかも知れないのですけどね。
(以降ネタバレあり) ラストのケイト・ブランシェットの目の演技は神技。あの目の表情の中に、数秒のうちの微妙な変化に、これから待ち受ける地獄を承知しながらも全てを受容しようとする覚悟が見られるのです。あれはこの名女優としても、生涯のベスト・ショットなのではないかなあ。
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