「アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち」:エンタテインメントの方には振りません
映画『アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち』は、ナチスの親衛隊将校アドルフ・アイヒマンを裁く1961年の裁判をTV放映した男たちの実話をもとにした作品。そう、『ハンナ・アーレント』で、題材になったあの裁判です。極めてまじめです。それは、映画作りの姿勢においてもまじめということで、エンタテインメントの方には振りません。そうなるのを、良しとしない感じです。
前半はイスラエルでの裁判までの準備、後半は裁判のTV中継をめぐるあれこれです。TVプロデューサーと、彼が起用した監督を中心に物語は進みます。 それほど圧倒的なドラマがあるわけではなく、生真面目に淡々とファクト(事実)とファクター(要素)を積み重ねていきます。エンタテインメントの方には振りません。
裁判の場面になると、アイヒマンの実際のTV放映映像やホロコーストの記録映像が、かなりの量使われます。それを見られるという意味において、貴重な映画です。裁判の「撮り方」に関して、プロデューサーと監督の意見が対立するところが、本作随一のドラマティック・シーンです。あとは、ドラマ的な演出を良しとしない覚悟が見て取れます。エンタテインメントの方には振りません。
この裁判中継の監督が、決して感情を表さないアイヒマンに「なぜだ?なぜだ!」となるのですが、ここだけはちょっとしつこい感じ。『ハンナ・アーレント』でも描かれた「悪の凡庸さ」を知っている我々にしてみれば、「だってあいつは官僚で、上の命令を下に流しただけだと思ってるんだから、つまり自分の罪を認識していないんだから、あんなもんでしょうよ」と思うのですが、彼はそこがどうしてもわからないのでしょうね。
というわけで、本作の予習には『ハンナ・アーレント』やら「悪の凡庸さ」に関する何らかの知識が必要なのに、本作にはそこが欠落しているので、観る者にとっては少々不親切だと思うのです。
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