「海よりもまだ深く」:円熟の人間喜劇

映画『海よりもまだ深く』は、『海街diary』に続いて、素晴らしい出来。『そして父になる』も含めて、是枝裕和の絶頂期と言っていいのでしょう。しかも3作とも見事なホームドラマです。
ですけれど、本作はコメディ要素が一番色濃く出ております。真面目だったり、不真面目だったり、飄々としていたり、そんな人々からにじみ出てくるおかしみの人間喜劇。

なかなかこういう地味な映画を作りにくい時代なのに、しかもTV局が制作してる映画なのに、これだけのクォリティのものを創り上げて、評価と共にある程度の観客数もきっちり取る是枝監督は、やっぱり凄いと思います。全てのシーンが面白いし、そくそくとした情感が湛えられてますもん。

阿部寛も真木よう子も樹木希林も息子役の吉澤太陽も、みんな圧倒的に素晴らしくて、わくわくしちゃいます。脇の小林聡美や池松壮亮やリリー・フランキーや中村ゆりも、いつも通り素晴らしいし。やはり、是枝作品の俳優たちは、見事に輝きますね。その上、真木さんにしても中村さんにしても、他の作品では見せない顔を見せてまして(やってることは普通なんですけど)、それが抜群に魅力的。映画の中で高橋和也が真木よう子見たさに居残ろうとする気持ち、リアルにわかりますねえ。

多くの登場人物が「アレして」「アレする」的な言い方をやけに多用しておりました。かと思えば人生訓的な名台詞(これを樹木さんが言うと、嫌味が無いのです)もありますし、この「小さな話」に普遍性を持たせる技は、脚本(こちらも是枝さんのオリジナル)も演出もまさに名人芸の領域なのでありました。 好きです、こういう映画。
| 固定リンク
トラックバック
この記事へのトラックバック一覧です: 「海よりもまだ深く」:円熟の人間喜劇:
» 映画『海よりもまだ深く』★母:希林さんの包容力に見る“幸せの予感” [**☆(yutake☆イヴのモノローグ)☆**]
作品について http://cinema.pia.co.jp/title/169459/
↑あらすじ・配役はこちらを参照ください。
母:樹木希林 ☆←絶賛です!
息子:阿部寛 ~売れない作家で探偵兼業
元嫁:真木よう子 ~長男と暮らし再婚考え中
(タイトルは、劇中に流れる
テレサ・テンさんの『 別れの予感 』の詞からの引用です。)
..... [続きを読む]
受信: 2016年6月12日 (日) 23時33分
» 海よりもまだ深く〜実は阿部寛の自伝? [佐藤秀の徒然幻視録]
公式サイト。是枝裕和原案・監督。阿部寛、真木よう子、樹木希林、小林聡美、小澤征悦、リリー・フランキー、池松壮亮、吉澤太陽、橋爪功、中村ゆり、古舘寛治。「歩いても 歩い ... [続きを読む]
受信: 2016年6月12日 (日) 23時45分
» 『海よりもまだ深く』 なりたいものにはなれなくて…… [映画批評的妄想覚え書き/日々是口実]
『そして父になる』『海街diary』などの是枝裕和監督の最新作。
阿部寛と樹木希林が共演する是枝作品ということで、『歩いても 歩いても』の姉妹編のような印象。『歩いても 歩いても』のタイトルがいしだあゆみの歌った「ブルー・ライト・ヨコハマ」の歌詞から採られているように、『海よりもまだ深く』のそれはテレサ・テンの「別れの予感」から来ている。樹木希林扮する母親が阿部寛の袖口あた...... [続きを読む]
受信: 2016年6月13日 (月) 00時19分
» 海よりもまだ深く [映画的・絵画的・音楽的]
『海よりもまだ深く』を渋谷シネパレスで見ました。
(1)『海街diary』の是枝裕和監督の作品ということで、映画館に行ってきました。
本作(注1)の初めの方では、団地で一人暮らしをする母親・淑子(樹木希林)の元にやってきた長女・千奈津(小林聡美)が、母親に...... [続きを読む]
受信: 2016年6月13日 (月) 05時26分
» 『海よりもまだ深く』是枝裕和監督、阿部寛、樹木希林、真木よう子、吉澤太陽、小林聡美、池松壮亮、他 [映画雑記・COLOR of CINEMA]
注・内容、台詞に触れています。『海よりもまだ深く』 監督 : 是枝裕和出演 : 阿部寛、樹木希林真木よう子、吉澤太陽小林聡美、池松壮亮リリー・フランキー、他物語・15年前に1度だけ文学賞を受賞したこと... [続きを読む]
受信: 2016年6月13日 (月) 05時37分
» 『海よりもまだ深く』 恥ずかしさと共感と [Days of Books, Films]
After the Storm(viewing film) 自分はなんでこんなに [続きを読む]
受信: 2016年6月13日 (月) 13時49分
» 海よりもまだ深く [象のロケット]
15年前に文学賞を一度獲ったきり泣かず飛ばずの作家・良多は、妻子と別れ、今は探偵事務所に勤めている。 ある日、良多と離婚した元妻・響子、そして11歳の息子・真悟は、団地で一人暮らしをしている良多の母・淑子の元に集まった。 ところが台風のため帰れなくなり、彼らは一つ屋根の下で一晩を過ごすことになってしまう…。 ヒューマンドラマ。... [続きを読む]
受信: 2016年6月13日 (月) 20時23分
» 海よりもまだ深く ★★★.5 [パピとママ映画のblog]
「そして父になる」「海街diary」の是枝裕和監督が、夢ばかり追い続けて妻子にも愛想を尽かされた甲斐性なしのダメ男を主人公に贈るコメディ・ドラマ。冴えない人生を送る男が、ひょんなことから年老いた母の家で、別れた妻子と一晩を過ごす中で織りなすほろ苦くも心沁み入る...... [続きを読む]
受信: 2016年6月17日 (金) 10時53分
» ショートレビュー「海よりもまだ深く・・・・・評価額1650円」 [ノラネコの呑んで観るシネマ]
夢見た未来じゃないけれど。
是枝裕和監督には、幾つ「家族」を語る視点があるのだろう。
デビュー作の「幻の光」以来、ほぼ一貫して描かれてきた、ミニマムな社会としての幾つもの家族の形と彼らが抱える様々な葛藤。
監督自身は嘗て「(独身だったのが)結婚して子供が生まれ、家の中で自分のポジションが息子から父親へと変化し、それに伴い家族の見え方も変化していった」と語っていたが、今回は阿倍寛が好...... [続きを読む]
受信: 2016年6月18日 (土) 19時24分
コメント
確かに円熟期かも。ベースに(アレして)等往年の邦画の佳さ、例えば成瀬巳喜男監督作品みたいに日常生活を淡々と追って行くスタイルがあるんでしょうけどー。インタビューを聴くと小津安二郎監督との比較には是枝裕和監督本人が戸惑って居ましたが、初期の小津監督のサイレント映画のもつコミカルさは併せ持って居ますね♪
投稿: PineWood | 2016年6月13日 (月) 07時01分
PineWoodさん、コメントありがとうございます。
「幻の光」とか「ワンダフルライフ」とか初期の是枝作品からは、こういう作家になって行くことが想像できませんでしたね。
いろいろアレして、良い年を重ねたってことですよね。
投稿: 大江戸時夫 | 2016年6月13日 (月) 21時46分