「ヴィクトリア」:全編1カットの衝撃
映画『ヴィクトリア』は、2時間19分全編を1カットで撮影した劇映画(クレジットを除くと2時間14分だそうですが)ってことで、画期的。ヒッチコックの『ロープ』はフィルムロールの切れ目をうまいことごまかしてますが、実際にはカットが切れています。ソクーロフの『エルミタージュ幻想』は現実と幻想が入り交じるセミ・ドキュメンタリー。『バードマン』はCG合成でカット割りなしに見せかけた作品。でも、こいつは一切ごまかしナシの1カット。上映時間=撮影時間なのです。フィルムからデジタルになって長時間の連続撮影が可能になり、カメラが小型化して移動が容易になり、暗所でもクリアな絵が撮れるようになったからこそ可能になった作品です。
全編長回しの効果というのは、主人公との一体化。リアルタイムで行動を共にしているような気分になれるところ。かなりハラハラし、絶望の雲に覆われ、息苦しくなり、と感情移入してしまいました。 そもそもこのヒロインが行っちゃいけない方にばかり行ってしまうので、こちらとしては終始「やめとけ!」「行くな!」と思っておりました。だって、あんなヤバそうな4人の男たちに、よくひょこひょこと着いていっちゃうなんて! そこにリアリティがないといえばないのですが、そうしないと物語が転がっていきませんからねえ。
でも、童顔なこの女性がどうしようもなく冒険や禁を犯すことが好きな性格で、心のうちで悪いことに魅かれている人物だということが、小出しにわかってくるあたり、なかなか巧みなのです。けっこう可愛い娘なのに、あんなオッサン顔の男に惹かれてしまうあたりも、まあ世の中にはありがちなことですから。 ヴィクトリア役のライア・コスタは、全編を通しての奮闘と変化が圧巻です。
本作を観て思うのは、「2時間あれば、何でも起きちゃう」「人生はたったの2時間で、まったく別の地点に行ってしまう」ということです。恐るべきほどに。 そしてラスト・シーンの後に関しても、あれやこれやと想像してしまいました。
それにしてもチンピラの一人が、狭いエレベーター内で平気でタバコを吸うのには驚きあきれましたね(食料品店の店内でも吸ってましたし)。ヴィクトリアも(ノン・スモーカーなのに)それを全く意に介さない風でしたし。へんなの。
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