「FAKE」:嘘と真、善と悪・・・
映画『FAKE』は、森達也監督があの事件後の佐村河内守氏とその奥さん(と愛猫)を追ったドキュメンタリー。単純に面白く目が離せませんし、メディアやら人間やら嘘と真実やら、多くのことを考えさせれれます。
マイケル・ムーアのドキュメンタリーと違って、作者のオピニオンをはっきり示す作品ではありません。森達也は戦略的にポーカー・フェイスを貫き、時には共感するふりをしたり、時にはわざと相手を挑発したりしながら、被写体の表層をはぎ取ろうと努めます。
そうは言っても、森達也にとっては表層の下の真実とやらもどうでもいいことのようです。それよりももっと、人間の心の中の分からなさとか、善悪入り混ざった曖昧さとかに興味があるみたいです。我々も見ている間中、佐村河内氏の印象が善へ、悪へ、また善へ・・・と振り子のように移ろっていきます。奥さんの存在が、更にその印象を複雑化させます。そして、猫だけが全てを知っている、みたいな・・・。
ラストのクレジット後のシーンを含めて、佐村河内氏が何か嘘をついていることは明らかなのですが、その範囲がどこまでなのかはわかりません。それは、あの人にしてもこの人にしてもあなたにしても私にしても・・・という、不可思議を突き付けて映画は終わります。でも映画の外側には、まだまだ違った嘘や違った真実が隠れているわけです。メディア論以上に、そんな人間の謎を考えさせる作品になっているのです。
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