「イレブン・ミニッツ」:時間のキュビスム
映画『イレブン・ミニッツ』は、イエジー・スコリモフスキ監督78歳の新作。かなりアグレッシヴに実験しておりまして、新しいです。若々しいです。30代の監督みたいなタッチです。そして、えらく面白いです。
さまざまな登場人物たちの午後5時から5時11分を、行きつ戻りつ重層的に描きます。まあ実際は5時前から描かれている部分もありますので、厳密な11ミニッツではありませんが、とにかく「時間のキュビスム」とでも呼ぶべきこだわりと実験精神が、広く普遍的な意味での「人生」と、その偶然性をあぶり出していきます。その手さばきが実にスリリングなのです。
進行するに連れ、画面には不穏な、只事ではない空気が流れます。特に「音」が不安を掻き立てていきます。絶対この後でとんでもない事が起きると、観てる誰もが思うのです。何しろ広告にも「観客誰もが想像し得ない前代未聞、驚愕のラスト・シーン」とか書いてありますし。
(以降ネタバレあり) 大江戸は「飛行機がビルに激突するとか、街なかに墜落する」とか、あるいは「空に宇宙人の円盤か何かが現れて、どえらい事が起きる(阪本順治の『団地』みたいに)」とかを考えたのですが、さすがにそこまで突飛ではありませんでした。
でもやはり見たことのないラストではありましたし、ブービートラップ的に連鎖する悲劇(カタストロフィ)が、ある種の開放感(カタルシス)を伴っているという戦慄すべき事実。そして、それらが膨大なモニター画像の海に飲み込まれていくという現代的寓意性。我々も、世界と偶然と自分の関係を否が応でも考えざるを得なくなるのです。
これまで観たことのないような映画ですし、そういう新しいクリエイティヴィティに出逢うことは、映画ファンにとっていつでも刺激的な喜びなのです。
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