「淵に立つ」:静かにさりげなく
映画『淵に立つ』、こわいですねー。観念的ホラーとでも言えそうです。なんか静かに嫌な所を突いて来るというか、真綿で首を絞める、しかも時々ギュッと絞める感じで・・・。カンヌの「ある視点」部門の審査員賞は伊達じゃありません。
そもそも浅野忠信の登場シーンのミディアム・ショットからして、異様な感触を伴っています。白い服の浅野が立っているだけなのですが、そう、『羊たちの沈黙』におけるハンニバル・レクターの登場シーンのように、その立っているだけの怖さがハンパないのです。 彼に関しては、その後も河原での古館寛治に対する豹変シーンなどが怖かったですねー(朝メシ食うのも速かったし)。そして、歩きながら白ツナギの上半身を脱ぐと真っ赤なTシャツという場面は、あたかも『シン・ゴジラ』で形態を変えて進化していくゴジラのようでした。
筒井真理子さんも、8年の経過がしっかりわかる変容など、行き届いた芝居と役作りでした。古館寛治は、まあ、これぐらいは演じられちゃう人ですよね。深田晃司監督作品だと、特に良いです。
全編を通じて、何気ないショットに不穏な空気が溢れています。そしてショッキングなショットは、きわめてさりげなく提示されます。そこらが深田晃司の作家性でしょうか。小生が大好きな『ほとりの朔子』とは全く方向性が違いますが、見事に高いレベルの作品を作りましたね。
『四月は君の噓』、『聲の形』に次いで、本作にも橋から女性が飛び降りるシーンがあります(その他に、防波堤から飛び降りる『少女』もありました)。この秋、日本映画で大流行中(?)です。
(以降ネタバレあり) ラストで古館寛治が瀕死の3人に人工呼吸を施す順番に、彼の心理が現れていてスリリングでした。最後まで残した娘を結局は救うという決心。迷いながらも、その人生を引き受けようとする覚悟。それが静かにさりげなく提示されることにおいて、本作にふさわしいエンディングでした。
とにかくドラマの密度が濃く、容赦がなく、視線はあくまでも冷ややかです。重いです。でも心を鷲掴みにするものがありますし、深田晃司の作家性は貴重です。今後にますます期待が持てますね。
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