「ダゲレオタイプの女」:クロサワ幽霊映画の集大成
映画『ダゲレオタイプの女』は、黒沢清がフランス資本でフランス・ロケで、フランスのスタッフ、キャストと作った初の外国映画。 でも、黒沢清ワールド全開で、あたかも集大成のような作品です。
なんと言っても、最初から最後まで幽霊譚です。黒沢お得意の幽霊譚です。ヨーロッパの、古典的な雰囲気の幽霊譚です。でも生者と死者の間が曖昧で、二つの世界を往還する「能」のような空気も併せ持つ幽霊譚なのです。
昨年公開されたマノエル・ド・オリヴェイラ監督の『アンジェリカの微笑み』に似た所もあります。ロングドレスの美女、幽霊、写真、男の妄執・・・。そして幽霊の描き方の「ぬけぬけとした」感覚も似通っていると思います。
冒頭に階段下のドアが音を立ててゆっくり開くあたりから、黒沢らしい「気配」が画面に溢れています。カーテンは揺れ、枯れ葉は舞い、何者かの気配が常に行き来します。
そして黒沢ならではの幽霊感覚が顕著なのは、昼日なか窓の向こうに遠景で立っている幽霊の違和感。そして、クロースアップになった幽霊の顔が光芒に包まれてぼやけているあたり。何とも言えない変な恐怖が静かに迫るのです。
昨年の『岸辺の旅』(これも幽霊映画ではありますが)で、円熟期の新展開を思わせた黒沢清ですが、本作では(初の外国映画ということもあるのでしょうね)むしろ昔ながらの王道クロサワ映画を作り上げました。 昔の人が「写真は魂を吸い取る」って言ったのも、まんざら妄言ではなかったのかも知れません。
新宿シネマカリテのロビーには、映画で使われたドレスと拘束器具(写真は消えちゃいました←幽霊の仕業?)が展示されておりました。
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