「聖の青春」:恋愛映画のように・・・
映画『聖(さとし)の青春』を試写会で観ました。 思った以上のクォリティで、「なるほど、東京国際映画祭のクロージング上映作に選ばれただけのことはあるわい」と思いました。森義隆監督は、『宇宙兄弟』にせよ本作にせよ、娯楽映画として手堅く作りながらも、それ以上のクォリティを作品に与えてくれます。脚本の向井康介の功績もあるかも知れませんね。
小生は将棋には疎いので、主人公の村山聖の事は全く知りませんでした(さすがに羽生善治のことは知ってますが)。平成の世に、こんな破天荒な破滅型の男がいたことに驚きました。相当にめちゃくちゃな奴です。お近づきにはなりたくないですね。 その面倒な変人を、体重大増量した松山ケンイチが、主演賞ものの怪演で演じ抜きます。それにしても太りましたねえ。彼の演じた『デスノート』のエルと並べて、その差を楽しみたい感じです。
一方でライバル羽生善治を演じた東出昌大が、実にいい味わいを出していました。勝負師としての厳しい顔、試合を離れた時の穏やかな顔・・・かなり作りこんだ演技で、成功しています。これまで東出=大根だと思っていた大江戸も、これには評価を改めざるを得ません。どうも失礼しました。 本作ではその他にも、筒井道隆、北見敏之、柄本時生らが、なかなかに良い味を出していました。
本作で興味深いのは、聖と羽生の関係を恋愛みたいに撮っているところ。少女マンガ好きの聖が羽生を前にぎこちなく緊張したり、恥じらったりするさまが乙女のようで、何とも不思議なニュアンスを作品に与えています。向井×森コンビの確信犯だと思います。対局場面なんて、まるで将棋盤をベッドに見立てたラブシーンのようで…。
後半が結構ゆったりと長くなるし、聖と羽生の対局などは、かなりじっくりと時間をかけて撮っています。しかも将棋の手を見せていくことは、一般の娯楽映画においては無理なので、二人の動きや表情に絞って描写していくため、結構単調でもあります。それでも、その腰の据え方に作り手側の決意や執念のようなものが感じらられて、飽きることはありませんでした。この主人公は、最後まで好きになれませんでしたけどね。
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