「オーバー・フェンス」:ライトでほんわかな山下流
映画『オーバー・フェンス』は、佐藤泰志原作の函館を舞台にした映画3部作の3作目ということで、当然『海炭市叙景』『そこのみにて光り輝く』と比べたくなってしまいます。両作に比べるとけっこうライトで、しかもラストにほんわか感を湛えております。山下敦弘監督の資質が影響しているのでしょうか。
『そこのみにて~』の綾野剛、池脇千鶴に負けず劣らず、本作のオダギリジョー、蒼井優は素晴らしい好演を見せています。ひりひりするような痛みと、何とも言えぬ味わいを発散させています。特に蒼井優はここのところ山田洋次作品で、原節子のような「いい子ちゃんキャラ」だっただけに、この強烈メンヘラ・キャラにはびっくりです。即病院行きをお勧めしたいほどの躁鬱ぶりなのです。鬼のような表情もコワイですし。
松田翔太や満島真之助の地味さもいい感じなのですが、地味で抑制の効いた優香がここではかなり良い感じです。『人生の約束』といい本作といい、彼女、女優として開花して来ました。
『そこのみにて~』同様、’70年代日本映画の匂いがします(かなりATG的な)。映画の時代背景は明示されませんが、まだ携帯電話の無くて、みんなが煙草を吸っている時代のようです。
職業訓練校がらみの描写が良いアクセントになっております(北村有起哉の家での「お魚の絵見る?」のエピソードは最高!)。そのおかげで作品全体が重苦しくならないで済んでいます。 その流れからのこのラストっていうのは、根拠のない希望の光が差すようで、これはこれで良いではありませんか。
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