「手紙は憶えている」:手紙じいさまの備忘録
映画『手紙は憶えている』の原題は“Remember”。はい、確かにそういう映画です。 「認知症のヒットマン」なんて、非常に今日的なネタですよね。しかしながら、ナチスの残党を追って・・・という物語なので、かなりの重みもあるわけです。それでもアトム・エゴヤン監督は、前作『白い沈黙』に次いで、面白さとクォリティを両立させた作品を作り上げてくれました。
クリストファー・プラマー演じる主人公のゼヴは90歳です。終戦後71年なので、そんなもんですよね。ということは、今を舞台に第2次世界大戦の生き証人のドラマを作る場合、現在がギリギリってことです。あと10年、いや5年たったら、作れなくなってしまうのでしょう。それ以降は舞台となる時代を設定する必要が生じて来ます。いずれにせよ、本作はおじいちゃん映画であり、主人公以外の登場人物も多くはおじいちゃんなのです。
すぐに記憶をなくしてしまう、自分が何者かすらわからなくなってしまうという設定がサスペンスを生んで、面白いのです。『掟上(おきてがみ)今日子の備忘録』みたいなもんです。主人公ゼヴも今日子さんのように、(備忘のために)腕に文字を書いておりました。ナチス信奉者の家でのサスペンス描写(お手本のようなカット割り)などは、実によくできております。
(以降ややネタバレあり) そして衝撃のラスト。なるほど、これはお見事です。これによって、作品はぐっとエンタテインメント寄りになりましたが、いいじゃないですか別にエンタテインメントだって。むしろ素晴らしいことです。しかもその中に、口当たりが悪く飲み込ない種のようなものを残してもいるのです。そして、そこがやはりエゴヤンなんですよね。あるいは「カナダ的」と言うこともできるのでしょうか?
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