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2016年11月20日 (日)

「この世界の片隅に」:多くの人に観てほしい秀作

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映画『この世界の片隅に』は各方面で絶賛の嵐ですが、確かに大いなる称賛に価する素晴らしさでした。市井の人々の暮らしの視点から戦争を描くというと昨年の『この国の空』を思い出しますが、アニメーションだってことによって、よりリアルでより普遍的な、大きな作品となっています。脚本・監督の片渕須直さんの前作『マイマイ新子と千年の魔法』は未見でしたが、こうの史代の原作マンガを得て、本当に素晴らしく意義深い作品を作ってくれました(クラウド・ファンディングで支援した方々と共に)。

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本作の主人公の声を務めた「のん」の声優演技が各方面で絶賛の嵐ですが、確かに大いなる称賛に価する素晴らしさでした。あの、ゆったりほんわかした感じ。そのトーンが何ヶ所かで崩れることがあり(もちろん意図的に)、その感情こそが聞かせ所になっています。いずれにしても、あの声によってこの主人公に魂が吹き込まれました。同じく戦時下生活アニメの傑作『火垂るの墓』の節子ちゃんの声のように。

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泣けるから良い映画だとは全く思いませんが、本作はとにかく泣けてしまいます。と言うか、深く感情を揺さぶられます。泣かせようとなどしていないんですよ。いや、むしろ笑わせようとしています。でも主人公や周りの人々の暮らしが丁寧に細やかに描かれることによって、彼女たちが自分の身内ででもあるかのように愛おしくなるので、フィクションや他人事ではない心情になってしまうのでしょうね。

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予告編で見た段階では、この絵柄があまり好みではありませんでした。しかし、実際に本編を観ると、広島の繁華街の再現だとか、家庭内の生活描写だとか、空襲場面のリアルさだとか、人物のやわらかさだとか、これまた称賛に値するものでした。 

できるだけ多くの人々に、特に若い世代と子供たちに観てほしい作品です。そういった意味でも、アニメーションで作られたことの意味は大きいと思います。 そして、のんさん、次は実写映画での活躍をお祈り申し上げます。

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