「皆さま、ごきげんよう」:自由な走馬灯映画
映画『皆さま、ごきげんよう』は、のんびりとした中にそこはかとないユーモアを湛えたオタール・イオセリアーニ監督作品。イオセリアーニじいさん、ますますもって夢現境を自由に飛び回っています。
そう、とにかく自由なんです。じいさんがロードローラーにひかれて「のしいか状態」になっちゃって、それをドア下の隙間から入れるなんてこと、誰が大まじめにやるってんでしょうか? この人は、やっちゃってます。しかも脈絡なしに、いろんなエピソードがつながったりつながらなかったりしながら、次から次へと変なことが続いていくのです。
思えば岩波ホールでは、「自由な」老人監督の自由過ぎるほど奔放な映画が、これまでも上映されて来ました。近年ではアラン・レネ晩年の『風のそよぐ草』や『愛して飲んで歌って』、古くはルイス・ブニュエルの『自由の幻想』。そう、本作オープニングで革命期フランスの処刑広場から始まるあたり、そこからも自由に時と場所とつながりを飛び越えるあたりは、まさに『自由の幻想』のテイストです。壁にドアが現れたり消え去ったりするあたりもそうですね。
そういった映画の自由さ、心の自由さが心地良くもありますが、一方ではどうにもこうにもつかみ所がなくって、映画がのらりくらりと逃げて行ってしまうような気もいたします。ま、きちんとした物語などありませんからね。始まりもなければ終わりもない、走馬灯のような映画でもあると感じました。
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