「ネオン・デーモン」:デーモニッシュな美の衝撃
映画『ネオン・デーモン』は色々とスゴ過ぎます。ここまで心を鷲掴みにして揺さぶりをかけて来る映画って、10年、20年に1本というレベルです。その圧倒的かつ独創的な美の奔流。そしてニコラス・ウィンディング・レフン作品らしく生々しい血に彩られた変態的グランギニョール趣味。これを問題作と言わずして何を問題作というのか?ってほどの大問題作です。この作品を好きだなんて言うと、人によってはドン引きかも知れません。でも限りなく美しい作品です。ケン・ラッセル的な感覚も混ざってますね。
『ドライヴ』、『オンリー・ゴッド』、本作と、まさにレフン監督のホップ、ステップ、ジャンプです。開巻の「美しき死体」から始まって、全てのショットが類稀なる美的センスを発散させていて、緊張、興奮し、手に汗をかきながら観ておりました。その映像の完璧なコントロール、天国の悪夢のような美しさは、キューブリック作品以来のクォリティです。色覚障害があるというレフン監督ならではの、エレクトリックな幻想のような、他の誰にもできない色彩のマジックには、ひたすら圧倒されます。タイトル場面の色彩設計からして、トリップしそうなくらいの幻惑感なのです。
そして主人公役のエル・ファニングとフォトグラファーが二人だけが、スタジオの真っ白な空間に浮かび上がるような場面は、まさに『2001年宇宙の旅』の感覚。そういえば、その後に出て来る三角形を組み合わせたミツウロコ印だって、なんだか『2001年』のスターゲート幻想シーンに出て来る幾何学図形みたいではありませんか。
そしてレフンといえば、もう一つは血と暴力。今回も過激に、disgustingなほどに、やってくれちゃってます。 エキセントリックとインモラルと血と暴力と美と少女とノワール(闇)と変態と・・・ってくれば、これはもう滝本誠さんの大好きな世界じゃないですかぁと思ったら、当然のようにプログラムに評論を書かれてました(ちなみにキラキラ特殊表紙の美しいプログラムでした)。適任です。 そして今野雄二さんが生きていたら、やっぱり大好きだったことでしょうね。
七変化とでも言えるような変貌を遂げるエル・ファニングなのですが、いわゆるファッションモデル的な美とはちと違いますよねえ。顔も体も「美しい」というよりは「かわいい」感じ(でも輝くサムシングを持っている)なのですが、篇中では周囲の人々がみな「美しい」と評しています。ちょっと違和感。 でも彼女、ここに来て完全にお姉さん(ダコタ)を抜き去りましたねえ。
この衝撃的な終盤には、さしもの大江戸も戸惑いました。ビビリました。ここをもっと高尚に仕上げれば、偉大なる作品になったのになあとも思いました。でも、このようにカルトな方角に持ってっちゃうところが、レフンなのでしょうねえ。最後の1割で自ら嬉々としてぶっ壊しちゃってます。でも観る者の心には大きな爪痕が残ります。やはりデーモニッシュな鬼才なのです。
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