「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」:現代の戦争と多面的な正義の考察
映画『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』は、思っていたよりずっと質の高い傑作でした。現代の「新しい」戦争映画として、エポックメイキングですし、とにかく脚本がよく出来ています。ある程度限定した場所を扱いながら、非常に多面的であり、その投げかける問題が深く重いのです。
誰にも簡単には答の出せない「究極の選択」を扱っています。この問題に絶対の正解なんて存在しません。イコール「この世に絶対の正義なんて存在しない」のです。立場が変われば、居場所が変われば、正義なんてひっくり返るものなのです。 それでも究極の解答を必ず選ばねばならないという状況。しかもそこには「個人の正義感や道義」だけではなく、「組織」「手続き」という問題が絡みます。その官僚的な面倒臭さを真っ正面から描いているのも、この映画の凄さの一つ。『踊る大走査線』が風刺的にコミカルに描いた組織の問題(それはそれで有効な方法でしたが)を、正面切って力強く描いているのです。
軍人の中でもそれぞれの役職やパーソナリティにより考えは異なりますし、法律家、大臣、大使らそれぞれの立場によって、また国の違いによっても思考の位相は全く違うのです。
それにしても、これ確かに決められませんよねー。サラリーマン的に、官僚的に、次々と「上司の判断を仰ぐ」展開には、「まあそうだろうなあ」と妙に納得しましたし、映画を観ながら、自分の見解もあちらこちらへと揺らぎ続けました。結局は誰だって、平和と正義のためにベストの選択をしようとしているのでしょう。けれどもこうなってしまうことを映画として描いた、その意義深さと出来の素晴らしさに敬意を表したいと思います。
作中に登場する最新のハチドリ型ドローンや昆虫型ドローン(カナブンみたいなやつ)に驚愕。ハチドリはニセモノっぽいんですけど、カナブンの方は本物の虫にしか見えなさそうです。こんな小さなドローンで、あそこまでの精度で操縦ができて映像を得られるというのには感心しました。戦争の形が、ここまで変容して来ているのですね。 また、映像を介しての死体確認場面のリアルさにも絶句し驚嘆しました。
こんなに傑作なのに年末12/23公開なので、この作品は本年度『キネ旬ベストテン』(対象期間=12/15公開まで)の対象外=翌年まわしなんですよねー。残念です。大江戸は以前のように年内公開作が対象(アカデミー賞方式)というシンプルな規定にしてほしいと言い続けているのですが・・・。
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