« 「幸せなひとりぼっち」:頑固おやじの若き日 | トップページ | 「マダム・フローレンス! 夢見るふたり」:謎が多いなあ »

2017年1月14日 (土)

「The NET 網に囚われた男」:心をえぐえる国家の暴力

358659_005
映画『The NET 網に囚われた男』は、これまでに無く描写に抑制の効いたキム・ギドク作品。でも観る者の内面をえぐって来る重い球です。

予期せぬ脱北者の理不尽な運命を通して描かれるのは、北と南の物語でありながら、実はもっと普遍的な権力と個人の問題です。

358659_008

狂信的な愛国捜査官が確信犯的に生み出す冤罪の構図。信念をもって暴走する者は周囲も止めにくいという普遍の事実。「北=独裁国家だから悪」という考えに染まり過ぎて、結局北と同じことをやってしまうというパラドックス。いつも以上に政治的で、でもいつも通り血の出る所をえぐって来るキム・ギドクです。

358659_002
若手警護官が本作中の良心の象徴のようでいながら、彼の親切心が後にあだとなる皮肉さもしっかり描かれるあたりが、さすがです。深いです。 そして、北に戻ってからも、南と同じような取り調べや精神的な拷問(抑圧、叱責、恫喝など)が行われる絶望感こそ、この映画のキモでありましょう。個人を翻弄、弾圧し、抹殺する国家というシステムの闇を描き、強度のある作品となりました。

358659_001

暴力の直接描写がないあたり、キム・ギドクも変容しつつあるみたいです。まあ、本作では肉体的な暴力よりも国家という暴力を描いたということなのでしょうし、体の痛みよりも心の痛みを突き詰めたということなのでしょう。

どうでもいいけどこの主人公、「なすび」(芸人)にちょっと似てますよねえ。

|

« 「幸せなひとりぼっち」:頑固おやじの若き日 | トップページ | 「マダム・フローレンス! 夢見るふたり」:謎が多いなあ »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「The NET 網に囚われた男」:心をえぐえる国家の暴力:

» 『The NET 網に囚われた男』 もどかしい現実を直視する [映画批評的妄想覚え書き/日々是口実]
 キム・ギドクの最新作(第22作目)。今回も監督・脚本・編集・撮影までこなしている。  この作品は個人的には今年一番の注目作なのだが、さらに監督第21作目の『STOP』もこの3月に公開予定とのことでそちらも楽しみ。  北朝鮮で漁師をしているナム・チョル(リュ・スンボム)は、妻と娘の3人で貧しいながらも平穏な生活を営んでいた。ところがある日、漁の最中に船のスクリューに網がひっか...... [続きを読む]

受信: 2017年1月15日 (日) 01時24分

» THE NET 網に囚われた男 [象のロケット]
北朝鮮の寒村で、妻子と暮らす漁師ナム・チョル。 唯一の財産である小さなモーターボートで漁に出るが、魚網がエンジンに絡まってボートが故障し、韓国側に流されてしまう。 スパイ容疑で韓国の警察に拘束された彼は、残酷な尋問を受けることに。 チョルの監視役となった青年警護官オ・ジヌは、チョルの潔白を信じ家族の元に帰らせたいと思うが、韓国当局の方針は違っていた…。 社会派ドラマ。... [続きを読む]

受信: 2017年1月18日 (水) 15時07分

» 『The NET 網に囚われた男』 矜持と悲しみ [Days of Books, Films]
The NET(viewing film) キム・ギドク監督の映画をずっと見てき [続きを読む]

受信: 2017年1月19日 (木) 14時34分

« 「幸せなひとりぼっち」:頑固おやじの若き日 | トップページ | 「マダム・フローレンス! 夢見るふたり」:謎が多いなあ »