「The NET 網に囚われた男」:心をえぐえる国家の暴力
映画『The NET 網に囚われた男』は、これまでに無く描写に抑制の効いたキム・ギドク作品。でも観る者の内面をえぐって来る重い球です。
予期せぬ脱北者の理不尽な運命を通して描かれるのは、北と南の物語でありながら、実はもっと普遍的な権力と個人の問題です。
狂信的な愛国捜査官が確信犯的に生み出す冤罪の構図。信念をもって暴走する者は周囲も止めにくいという普遍の事実。「北=独裁国家だから悪」という考えに染まり過ぎて、結局北と同じことをやってしまうというパラドックス。いつも以上に政治的で、でもいつも通り血の出る所をえぐって来るキム・ギドクです。
若手警護官が本作中の良心の象徴のようでいながら、彼の親切心が後にあだとなる皮肉さもしっかり描かれるあたりが、さすがです。深いです。 そして、北に戻ってからも、南と同じような取り調べや精神的な拷問(抑圧、叱責、恫喝など)が行われる絶望感こそ、この映画のキモでありましょう。個人を翻弄、弾圧し、抹殺する国家というシステムの闇を描き、強度のある作品となりました。
暴力の直接描写がないあたり、キム・ギドクも変容しつつあるみたいです。まあ、本作では肉体的な暴力よりも国家という暴力を描いたということなのでしょうし、体の痛みよりも心の痛みを突き詰めたということなのでしょう。
どうでもいいけどこの主人公、「なすび」(芸人)にちょっと似てますよねえ。
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