「わたしは、ダニエル・ブレイク」:怒りのメッセージ、ケン・ローチの集大成傑作
映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』は、これまでに観たケン・ローチ監督作品の中で一番好きです。80歳になった巨匠の集大成にして最高傑作という広告フレーズめいた誉め言葉も、どうしてどうして実にその通りなのです。
この作品を観て、義憤にわななかない人はあまりいないのではないでしょうか。制度や役所の非人間性をストレートに糾弾して、強力なメッセージ性で訴えかけてきます。
何しろ映画館では終映後に、重い感動と落涙とやりきれなさとで席を立てないでいる人がやけに多かったことに驚きながら、そうだよなあと納得しておりました。これは「観る者を怒らせる映画」なのではないでしょうか? あくまでも理不尽に対する正義の怒り、善意の怒りです。 このイギリスの役所仕事のひどさを見ていると、日本の公務員ってかなり人間的でえらいなあと思わざるを得ません。本作に描かれているような人間の尊厳をつぶし、ヘタすれば人を殺すような硬直化したシステムやルールなんて、いったい誰のためにあるのでしょうか? とても21世紀の文明社会の出来事とは思えません。
主人公のダニエルさんも、シングルマザーのケイティも、まじめに生きようとしている真っ当な人たちなのに、それをあざ笑うかのような非人間的な「壁」の前に、不当に虐げられます。終盤にダニエルの取った捨て身の行動は痛快ではありますが、多くの人はその前にブチ切れてしまうのではないでしょうか。 ラストで読みあげられる言葉も、胸を打ちます。 そしてケイティが空腹のあまり・・・という場面では、意表を突かれて胸が詰まりました。凄い作品です。
この傑作を観たら、その姿勢がケン・ローチと重なる山田洋次さんには、『家族はつらいよ』あたりでお茶をにごさずにもっと頑張ってほしいなどと思ってしまいました。でも山田さんは松竹を背負っちゃってるからなあ・・・。
ダニエル役のデイヴ・ジョーンズ(なんとコメディアンなのだとか!)も、ケイティ役のヘイリー・スクワイアーズも人間の魅力にあふれた見事な演技。その他の役者も素晴らしいと思います。 そしてこの100分に込められたケン・ローチの渾身の(でも力み過ぎない)メッセージを、私たちは無駄にしてはならないと思うのです。
| 固定リンク
コメント
こんにちは。TBをありがとうございました。
本当に凄い作品でしたね。
>ケイティが空腹のあまり・・・という場面では、意表を突かれて胸が詰まりました。
と書かれていらっしゃいますが、本当に、母として子供たちだけにはひもじい思いをさせてこなかった、対して自分が空腹であることを微塵も感じさせなかった、そのケイティの母としての高潔さに胸が震えます。
もうひとつ、娘が学校でいじめられないように新しいスニーカーを買ってあげたいというその思いから道を外れた仕事に就くケイティのその決断、ダニエルがエスコートサービスのその場所を訪れた時の態度に対しても、心の中で涙が止まりませんでした。
投稿: ここなつ | 2017年4月13日 (木) 12時24分
ここなつさん、コメントありがとうございます。
おっしゃる通りで、こんな高潔な魂の人々を救えない制度、救えない社会って何なんでしょうね。人に寄り添えないシステムや国家なんて…。
本当に力強く心に突き刺さる映画でした。
投稿: 大江戸時夫 | 2017年4月13日 (木) 13時15分