「マンチェスター・バイ・ザ・シー」:心に染み入る傑作
映画『マンチェスター・バイ・ザ・シー』は、1970~80年代前半の映画のような雰囲気を湛えた作品。地味でありながら、ある意味衝撃的でもあり、心に染み入る傑作です。
寒い風景の(イギリスではなくアメリカ東海岸の)マンチェスター・バイ・ザ・シー(という町)で繰り広げられる人間の関係性をめぐるドラマであり、喪失と再生の予感みたいな物語でもあります。
数多くの回想シーンを経て後半にようやく明かされる「事件」がかなりの衝撃度で、それは確かに関わった人間の心を壊すに足るものだよなあと納得できます。ここに至って、少しずつ見えて来た本作の全体像が理解できるようになる&各キャラクターの言動についても理解できるようになるのです。その映画作りの、脚本の巧さが抜群です。
全体の構成もそのように見事ですし、場面場面の描写も達者なら、撮影、音楽なども質の高い仕事をしていて、もちろん役者も素晴らしくて・・・と、映画のレベルが高いのです。3作目の映画、また日本公開作としては1本目だというケネス・ロナーガン監督の堂々たる才能に注目したいと思います。
映画的に映像で語ることがきちんと出来ています。いや、それ以上のものを心象風景的に表現していたりもします。寒そうな景色だとか、雁行する海鳥とかが、見事に効いているのです。
オスカーを手にしたケイシー・アフレックも確かに只ならぬ説得力だと思いますが、短い出演時間ながら小生が感銘を受けたのは、主人公の元妻役のミシェル・ウィリアムズ。偶然再会した二人が屋外で話すシーン(まさに名場面!)での彼女の感情の揺れ動き演技の破壊力は、ただただ凄いです。こちらの感情もわしづかみにされて揺さぶられてしまいます。
微かに、さりげなく、ちょっとだけの希望の光を見せるようなラストのつつましさが、また素敵なのです。「上質な大人の映画」ってこうだよねって感じでした。
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