« 「花戦さ」:忖度好きジャイアンvs.ダイバーシティ | トップページ | 若冲のSTETECO »

2017年6月12日 (月)

「マンチェスター・バイ・ザ・シー」:心に染み入る傑作

359226_004
映画『マンチェスター・バイ・ザ・シー』は、1970~80年代前半の映画のような雰囲気を湛えた作品。地味でありながら、ある意味衝撃的でもあり、心に染み入る傑作です。

寒い風景の(イギリスではなくアメリカ東海岸の)マンチェスター・バイ・ザ・シー(という町)で繰り広げられる人間の関係性をめぐるドラマであり、喪失と再生の予感みたいな物語でもあります。

359226_003
数多くの回想シーンを経て後半にようやく明かされる「事件」がかなりの衝撃度で、それは確かに関わった人間の心を壊すに足るものだよなあと納得できます。ここに至って、少しずつ見えて来た本作の全体像が理解できるようになる&各キャラクターの言動についても理解できるようになるのです。その映画作りの、脚本の巧さが抜群です。

全体の構成もそのように見事ですし、場面場面の描写も達者なら、撮影、音楽なども質の高い仕事をしていて、もちろん役者も素晴らしくて・・・と、映画のレベルが高359226_002いのです。3作目の映画、また日本公開作としては1本目だというケネス・ロナーガン監督の堂々たる才能に注目したいと思います。

映画的に映像で語ることがきちんと出来ています。いや、それ以上のものを心象風景的に表現していたりもします。寒そうな景色だとか、雁行する海鳥とかが、見事に効いているのです。

359226_001

オスカーを手にしたケイシー・アフレックも確かに只ならぬ説得力だと思いますが、短い出演時間ながら小生が感銘を受けたのは、主人公の元妻役のミシェル・ウィリアムズ。偶然再会した二人が屋外で話すシーン(まさに名場面!)での彼女の感情の揺れ動き演技の破壊力は、ただただ凄いです。こちらの感情もわしづかみにされて揺さぶられてしまいます。

微かに、さりげなく、ちょっとだけの希望の光を見せるようなラストのつつましさが、また素敵なのです。「上質な大人の映画」ってこうだよねって感じでした。

|

« 「花戦さ」:忖度好きジャイアンvs.ダイバーシティ | トップページ | 若冲のSTETECO »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「マンチェスター・バイ・ザ・シー」:心に染み入る傑作:

» マンチェスター・バイ・ザ・シー [佐藤秀の徒然幻視録]
公式サイト。原題:Manchester by the Sea。ケネス・ロナーガン監督。ケイシー・アフレック、ミシェル・ウィリアムズ、カイル・チャンドラー、ルーカス・ヘッジズ、グレッチェン・モル、カ ... [続きを読む]

受信: 2017年6月12日 (月) 23時06分

» 映画:マンチェスター・バイ・ザ・シー Manchester by the Sea  渋くアカデミー主演男優賞、脚本賞2冠、も納得の人間ドラマ。 [日々 是 変化ナリ ~ DAYS OF STRUGGLE ~]
アカデミーで、主演男優賞、脚本賞の2冠。 確かに主演のケイシー・アフレック、いつもいいが今回は更に存在感バツグン。 そして脚本も劇シブい。 ボストンと海辺の田舎町、を対比させながら、疲弊したアメリカ社会を描く。 主人公は地元の漁港マンチェスター・バイ・ザ・シーから距離を置き、ボストンに住んでいた。 ところが兄の急死で地元に呼び戻され、各位連絡、甥とともに遺体安置所へ、葬儀の手配 etc...... [続きを読む]

受信: 2017年6月13日 (火) 00時08分

» マンチェスター・バイ・ザ・シー [映画的・絵画的・音楽的]
 『マンチェスター・バイ・ザ・シー』を渋谷シネパレスで見ました。 (1)アカデミー賞の主演男優賞と脚本賞を取った作品ということで、映画館に行ってきました。  本作(注1)の冒頭では、「マンチェスター・バイ・ザ・シー」(注2)という町の漁港から船が、外洋に向...... [続きを読む]

受信: 2017年6月13日 (火) 05時22分

» マンチェスター・バイ・ザ・シー [象のロケット]
ボストン郊外で便利屋をしている男リー・チャンドラーの元に、兄ジョーが倒れたという知らせが入る。 故郷マンチェスター・バイ・ザ・シーへ戻ると既に兄は死亡しており、リーは一人になった16歳の甥パトリックの後見人に指名されていた。 パトリックは父の家で暮らすことを望むが、過去の悲劇から立ち直れないでいるリーは、パトリックをボストンへ連れていくつもりだった…。 ≪心も涙も、美しかった思い出も。 すべてを置いてきたこの街で、また歩きはじめる―≫... [続きを読む]

受信: 2017年6月13日 (火) 15時37分

» 『マンチェスター・バイ・ザ・シー』('17初鑑賞49・劇場) [みはいる・BのB]
☆☆☆☆☆彡 (10段階評価で 10+) 5月16日(火) シネ・リーブル神戸 スクリーン3にて 12:50の回を鑑賞。 [続きを読む]

受信: 2017年6月14日 (水) 13時24分

» ショートレビュー「マンチェスター・バイ・ザ・シー・・・・・評価額1750円」 [ノラネコの呑んで観るシネマ]
ふたたび、海からはじまる。 心に染み入る、極上のヒューマンドラマ。 古都ボストンから北東へ30マイル。 マサチューセッツ湾を望むマンチェスター・バイ・ザ・シーは、風光明媚な港町だ。 兄ジョーの急死をきっかけに、この街に戻って来た弟のリーと、彼が後見人を務めることになる16歳の甥っ子パトリックの関係を軸に、大きな葛藤を抱えた人々の人生模様が描かれる。 なぜリーは美しい故郷を捨て、...... [続きを読む]

受信: 2017年6月14日 (水) 22時28分

» 「マンチェスター・バイ・ザ・シー」 [或る日の出来事]
叔父と甥の会話(言い合い)が、なかなか笑える。ユーモアがあっていい。 [続きを読む]

受信: 2017年7月 7日 (金) 07時17分

« 「花戦さ」:忖度好きジャイアンvs.ダイバーシティ | トップページ | 若冲のSTETECO »