「ナラタージュ」:静けさと情感の恋愛映画
映画『ナラタージュ』の原作by島本理生は、だいぶ昔に読みました。かなり好きでした。でもほとんど内容を忘れていました。でも今回の行定勲による映画化は、原作とは違う手触りなんですけど、うまく行定ワールドの中で良い映画にまとめてあると感じました。
静かな映画です。映画音楽もかなり少ないのですが、それ以上に雨の音だとか沈黙の支配する場面だとか、静寂さが強調されています。有村架純と松本潤の「温度の低い」演技も、その静けさを増幅させています。キラキラ映画とはえらい違いです。
その上、やたらと雨が降っています。富山が舞台ということもあって、カラッと晴れることがありません(まあ、富山にだって晴れの日はあるでしょうけど)。海辺だって、やけにいろんな物が落ちてるし、常に曇ってます。 この晴れない感じ、いつも雨の感じが、主人公(有村)の心象風景であることは言うまでもないでしょう。いいですね。大人の映画として成り立っています。そりゃあ、映画内にも出て来る『浮雲』あたりとは較べようもありませんが、今の恋愛映画として悪くないと思いますよ。
日本映画って、意外にちゃんとした恋愛映画が少ないんです。そういう意味でも貴重です。登場人物たちの言葉の裏側のいろんな思い、頭の中をぐるぐる回っているあれこれを表現できているのが立派だと思います。 でもそういった心内語をキャッチすると、この先生(松潤)ってかなりズルイ人ですし、主人公(有村)ってけっこうしたたかな人でもあります(有村さんはそこらへんを結構繊細に演じておりました)。 そして坂口健太郎に至っては、ほとんどサイコパスなDV野郎であります。主人公、別れて良かったですよ、はい。
松潤の先生だって、一歩間違えたら(逮捕はされないにせよ)失職しかねないことしてますよねー。この人こそ、淋しそうな顔をした天性の「魔性の男」なんじゃないでしょうか。
(以降ネタバレあり) で、この恋愛のキモは「最後の一夜」があること。あれのおかげで、主人公は思い出と共に生きていけるのです。前へ進めるのです。そういった描き方をさりげなく、でもきっちりと行って、情感を醸し出せる行定勲は、やはりいい監督だと再認識しました(まあ、ムラのある人ではありますけどね)。
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