「あゝ、荒野」(前篇):良い日本映画の熱量
映画『あゝ、荒野』は寺山修司の原作を、半世紀たってから映画化。しかも前篇2時間37分、後篇2時間27分、合計5時間4分の堂々たるスケールです。
でも前篇を観た限りでは、その長さを感じさせない面白さ。むしろもっと見続けていたいほどでした。早く後篇を観たいと思わずにはいられません。
舞台は’60年代ではなく2021年の新宿。開巻早々の爆弾テロ・シーンに驚かされます。でもそこで、この「2020東京オリンピック後の物語」にすんなりと入っていけますし、考えてみれば寺山原作は「1964東京オリンピック後の物語」であったんだなあと納得いたしました。
とはいえ、やけに’60年代感覚が漂います。街並みの空気にせよ、男と女の関係にせよ、ボクシングにせよ、近未来の匂いよりも’60年代の匂いの方が濃厚です。
ドローンとか自殺防止フェスティバルの部分は確かに近未来的でしたが、あそこは微妙ですねえ。この作品においては、かなりの異物感でありました。現代に(近未来を舞台に)寺山的なものを創ろうとしたチャレンジの結果だとは思うのですけれど・・・。
この作品の良さは、ボクシングという太い幹を通して男二人をしっかりと描いていること。脚本も演出も見事な力量なので、どの場面も面白く、見飽きることがないのです。本物の「良い日本映画」の熱量が、全篇に満ち満ちています。
菅田将暉とヤン・イクチュンの良さは言うまでもありませんが、ユースケ・サンタマリアがえらくいいのです。いつもはやり過ぎだったりヘタだったりする彼が、ここでは抑制を効かせながらもユーモアを滲ませて、味わい深い好演を見せてくれます。 彼が片目だってことと、でんでんのトレーナーがニッカーボッカー姿のおっちゃんだってことと合わせて、かなり『あしたのジョー』的でもあります。そこもまた’60年代的なところですねえ。
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