「わたしを離さないで」 by カズオ・イシグロ
ノーベル賞に敬意を表してって感じで、先日古本屋で買って、カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』(早川文庫/土屋政雄訳)を読みました。
これ、映画化されたもの(2011年公開)は観ていますが、今一つ印象が薄くてほとんど忘れちゃってました。 (その時の当ブログの記事はこちら↓)
http://oedo-tokio.cocolog-nifty.com/blog/2011/05/post-f87f.html
名人芸というか何というか、見事な筆の運びです。ある「謎」を孕みながら進行する物語。少しずつ小出しに秘密を明かしながら、じれったいほど徐々に核心に迫って行く筆致で、小説の面白さを堪能させます。先が知りたくなって、ぐんぐん読み進むのです。
これ、何の予備知識もなく読んだなら、さぞや驚くことでしょうねえ。それぐらいオールド・イングランド調の設定とSF的な謎とがかけ離れていて、でもリアルなキャラクターや精緻な心理描写が、そのギャップを感じさせないのです。そこらが小説家の腕ってもんですね。さすがです。
終盤からラストに漂う無常観は、映画も小説も同様です。静かに胸を打つものがあります。そして読む者(観る者)は、人間というものについて、人の生について、深く哲学せざるを得なくなるのであります。
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