「おクジラさま ふたつの正義の物語」:ニュートラルな問題提起
映画『おクジラさま ふたつの正義の物語』は、あの『ザ・コーヴ』で世界的に有名になった(というか悪名をとどろかせる羽目になってしまった)和歌山県太地町のイルカ(クジラ)漁をめぐる地元vs.環境団体(シー・シェパードなど)の戦いをめぐるドキュメンタリー。『ハーブ&ドロシー』(1&2)の佐々木茅生監督が6年を費やしたという本作は、いやでも応でも大変興味深くこの問題を考えさせる作品になっております。
とにかくこの映画の視点はニュートラルに感じられます。両サイドのどちらにつくでもなく、それぞれの言い分や行動を均等に、あからさまな演出なしに捉えていきます。そのニュートラルさのベースになっているのが、日本在住20年のアメリカ人ジャーナリスト、ジェイさん。日本とアメリカ(世界)、捕鯨と反捕鯨の両サイドを理解し、両社の反目や誤解などの暗黒(darkness)を何とかしたいと思っている彼の姿勢や人柄が、この緊迫した場面の多い映画に爽やかさや暖かさを与えてくれています。
捕鯨を奪われると生きる術がないという太地町の人々の苦悩もわかりますし、多くの人の言葉には悔しさややり場のない怒りがにじみます。でも、ジェイさんが指摘したSNSやICTをバンバン使う/ほとんど使えない、ということが生む決定的な差は、この時代においては致命的です。そこはボランティアを募ってでも、真っ先に手を付けなきゃいけないところではないでしょうか。
「日本人の7割は捕鯨に賛成。でも鯨を食べるかというと、食べない。」、つまり実はどうでもいいと思ってる事柄なんだけど、理不尽なほどに強硬に非難してくる対欧米諸国への感情論になってしまっているってところが、確かにこの問題の本質なのでしょう。誰かが映画内で語っていた「(非難してくる外国の人たちが静かになれば)日本人はこの問題なんか忘れちゃうし、クジラなんか食べない」ってのが、実は本当のところなのだと思います。
それにしても、反捕鯨派のアメリカ人男性がまじめに語っていた「もうマグロも食べないようにするよ。チキンとかそういうものを食べるようにする。」ってのは、ほとんどギャグの領域ですね。マグロを殺すのはかわいそうで、鶏を殺すのはオッケーなのかという・・・。
世界の多くの国が食糧難の今、そしてこれから、(絶滅危惧種ではない)鯨肉が彼らの命を救うとすれば、それは望ましいことではないのでしょうかねえ。
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