「オリエント急行殺人事件」:風格とコクと映画美
映画『オリエント急行殺人事件』は、1974年のシドニー・ルメット監督作を43年ぶりにリメイク。風格を失わずに、映画のコクをしっかり打ち出したのはご立派。さすがはケネス・ブラナー監督ですね。彼自身が演じたポワロも、堂々とサマになっておりました。
ルメット版は127分あったのに、今回は114分ってことで、ちょっと駆け足な印象。ポワロが乗客たちに聞き込みをするあたりが、かなり省かれた印象です。というわけで、あまり謎解きには重きを置いていない作りとなっておりました。
まあ、この「意外な犯人」のトリックがかなり世の中にネタバレしちゃっているわけなので、謎解きよりも「語り口」となるのも、むべなるかななのですが・・・。そんなわけでこの映画、特に終盤は上質な「人情噺」のようでありました。これ、落語にできるだろうなあと思っちゃいました(志らくさんがもうやってたりするのかしらん?)。
1930年代を再現した美術がいいですよ。オリエント急行の内装とか。もちろん衣装も。ポワロのステッキや(寝る時の)ひげカバー(?)一つとってもさすがです。ここらへんはハリウッドの力を見せつけておりますね。 そしてイスタンブールの景色、雪山の景色など、風光明媚な映像も、素晴らしく高いクォリティでスケールの大きな美を見せてくれました。
序盤のポワロがオリエント急行に乗り込んだ時の、外から電車の窓を通して見せていく長い長い横移動の映画的素晴らしさ! そして終盤のポワロを、今度は社内の縦移動で追っていくキャメラ! この二つの見事な移動撮影の間で展開する物語を生き生きと動かしてくれるのも、もちろんポワロなのです。まるでケネス・ブラナーが自らのプロモーションビデオを撮っているかのようで・・・。
ミシェル・ファイファーも、ペネロペ・クルスも、皆さん等しく年を取って行かれますねえ。一応オールスター・キャストではありますが、ルメット版に較べると小粒感は否めません。でもまあ、謎解きタイムの「最後の晩餐」的ショットで勢揃いしたりすると、やはり壮観です。
(以降少々ネタバレあり) びっくりしたのは、雪崩場面があったり、汽車が橋の上で(斜めに)立ち往生したり、ポワロがアクションを繰り広げたり、銃撃場面があったりしたこと。言葉だらけの密室劇にならないようにとの配慮なのでしょうが、この当世風変更はいかがなものでしょうかねえ。これらの部分には違和感が残りました。
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