「苦い銭」:延々と撮るから、見えて来る
映画『苦い銭』は、極北ドキュメンタリーを連打するワン・ビンによる、またしてもの問題作。今回は、中国・浙江省の縫製工場(というよりは工房程度)における出稼ぎ労働者たちの苦しい日々を追っていきます。主人公は一人ではなく、何人かの老若男女を描き、その果てにこの町の全体像が見えて来るのですが、それは世界ともつながった問題なわけで、そこらへんはさすがだと思います。
何かドラマティックなことが起こるわけでもない2時間43分を、飽きずにしっかり観ることができます。それはやっぱり「人間の面白さ」ってことなんでしょうねえ。 小生が一番気に入ったキャラクターは、45歳の小太りの男。この人、ミシン速いんだよねー。見事な技術を持ったベテランのおっちゃんです。こういう人が服を作って、世界のアパレルやファッションって成り立っているんですねえ。おしゃれ服を縫っているのが、上半身裸の小太りおっちゃんですもんねええ(これ見たら、買わないって女性がいるに違いありません)。
また、延々と、長過ぎるぐらいに撮ってるからこそ、見えて来るものってあるんですねえ。暴力亭主との夫婦喧嘩の描写なんか、最初のうちは完全に旦那の方が悪いとだけ思っていたのですが、延々と見てるうちに、愛とかなんとか不可思議なものまで見えて来ます。終盤にもう一度登場する時なんか、よりが戻って、ああ「割れ鍋に閉じ蓋」だったんだねえと思えるようになってます。 縫製の作業場で、酔っぱらった中年男が若い女性工員にからんでちょっかい出すあたりも、長々と撮ってるから、複雑なものが見えて来ます。
それにしてもヴェネチア映画祭で、この作品が「脚本賞」を獲ったって・・・、それゃあないんではないでしょうか? 世の中の脚本家たちは怒るでしょう、これ。
それよりもやっぱり凄いのは、こんな近くにキャメラがあって撮影してるってのに、みんながここまで撮らせてくれてるってこと。撮られちゃ体裁悪い場面も多いのですが、我々は目にすることが出来ています。 「迷惑料」的にお金が払われたなんてことがあるのか無いのか? 気になる所ではあります。
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