「ファントム・スレッド」:完璧な映像の中の完全主義者、だが・・・
映画『ファントム・スレッド』は、ポール・トーマス・アンダーソン(PTA)監督とダニエル・デイ=ルイスのコンビが、あの重厚な『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』に次いでタッグを組んだ作品。両作の毛色は随分と違いますが(そもそも『ファントム・スレッド』はPTA史上初のアメリカ以外が舞台の映画)、作品のクォリティの高さでは引けを取りません。とにかく映像が完璧です。映画の映像として、美しいだけでなく雄弁です。
PTA映画の主人公って、常に「歪んだ人」ですが、本作のオートクチュール・デザイナーも、相当に歪んでます。その、神経質で完全主義な「あるある」な個性を、ダニエルが完璧に演じます。こういう人は他人と暮らすのが無理なんだから、結婚なんかしちゃいけません。それをご本人が一番よくわかっていたはずなのに・・・ってお話です。 それにしてもオープニングで身支度をする彼のルーティンの美しさと完璧さ。これでどういう人かを描くPTAは、さすがですね。
ダニエルに対する“マイ・フェア・レディ”としてのヴィッキー・クリープスですが、大江戸はどうにも好きになれない顔です。ぼんやりした華のない顔。なぜ彼が魅かれて行ったのかが、説得力を持って描かれていないのが、本作の欠点だと思います。
一方で、ダニエルの姉を演じるレスリー・マンヴィルのクールな表情の芝居が豊かで、完璧です。
(以降ネタバレあり) あまりにも見事な夫婦喧嘩描写を経て、作品はかなり変態的な地点に着地します。人間の不可思議といえば、そうなのかも知れません。いずれにせよ、他のPTA作品同様、何とも割り切れない「大人の味わい」なのです。
衣擦れの音、食べ物を食べる音、食器の音・・・本作は(誇張された)音の映画でもあるのでした。もちろんジョニー・グリーンウッドの音楽の素晴らしさも、言うまでもありません。
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