「フジコ・ヘミングの時間」:仕事と暮らしと人生と
映画『フジコ・ヘミングの時間』は、80代を生き続ける異色のピアニストの仕事と生活と人生を追ったドキュメンタリー。題材となる人が異色なだけに、ドキュメンタリーの作りは非常にオーセンティック。丁寧で正攻法な描写の積み重ねの中に、フジコ・ヘミングの人生を浮かび上がらせていきます。
パリを中心に他の土地の住まいも含めた暮らしの描写は、自然体にリラックス。ペットの犬や猫との交流も含めて、「いいおばあちゃん」という側面で、ほっこりとさせてくれます、
一方でピアニストとしてのワールド・ツアーは、世界各地のピアノを巡る旅でもあり、プロの、しかも高齢のプロとしての難しさ、厳しさ、仕事冥利みたいなものを感じさせてくれます。
彼女の指がぶっといんですよねー。ピアニストの指というと、すらりとして繊細なイメージがあるのですが、彼女の指と来たらグローブみたいに太くて分厚いのです。これには驚きます。 それでも気迫の演奏を聴かせてくれます。終盤の『ラ・カンパネラ』なんかは、映画のクライマックスとして、たっぷり聴かせて(見せて)くれます。
そういった映像の間に、少女時代の彼女が描いた絵日記が挿入されます。この絵が、顔にしろ腕や脚にしろ、ちゃんと影(陰影)をつけて描かれているのですね。なかなか達者なものだと思いました。
(以降ネタバレあり) エンド・タイトルロールの後に、彼女の父親が昔手がけたポスターを見る場面があります。(妻子を置いて出てっちゃって戻らなかった父親だけど)「これだけのものを創ったんだから、まったく悪いだけの人じゃなかったんでしょうね。」とか、フジコさんが言うのです。その許しと諦念と人生の重みと苦さ、この付け足し的場面により、作品の質がぐっと上がりましたねえ。
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