「きみの鳥はうたえる」:石橋静河が主演賞モノ
映画『きみの鳥はうたえる』ってタイトルは、パッと見「うろたえる」みたいです(漢字使ってないから)。まあ、そんなことはどうでも良くて、本年指折りの秀作でした。『海炭市抒景』『そこのみにて光り輝く』『オーバーフェンス』と、映画化作品すべてがキネ旬ベストテンに入る高評価作となっている佐藤泰志原作による函館舞台映画の4本目。’80年代前半という原作を現代に置き換えて、でも函館という街の空気をしっかり感じさせながら、味わい深い作品に仕上がっています。大江戸的には、4本の中で一番好きかも知れません。
とにかく、この4作品って(ということは、佐藤泰志原作がってことでしょうか)実に’70年代の日本映画の香りがするのです。あの時代のATG映画的と言ってもいいでしょう。でも日本映画って、本質的にああいう感じが最も得意なのではないかなあ、などとも思ってしまいます。でもまあ、ああいう鬱屈した作品って小生は嫌いだったりするので、CG映画やキラキラ映画の中にたまーにあるからいいのかも知れませんね。
本作では石橋静河、柄本佑、染谷将太の3人(いずれも芸達者)がみんな素晴らしくナチュラルな演技を見せています。三人とも演技賞もののレベルです。中でも石橋は、昨年キネ旬の新人賞を獲ったばかりだというのに、ここでは主演女優賞狙えるんじゃないの?っていうような芝居です。『夜空はいつでも最高密度の青色だ』やTV『半分、青い。』の時は笑顔がほとんどない役だったのですが、この作品ではニコニコして躍動して輝いてます(笑顔って大事ですね)。もちろんそれだけじゃなくて、役者としての深みも広がりも出ています。堂々と主演してます。彼女、’70年代だったらATGに引っ張りだこだったでしょうね。さすがは原田美枝子の遺伝子です。
今年34歳の三宅唱監督は、これまで大江戸のアンテナに引っかからないほど地味な公開のされ方の小規模な作品数本で注目されて来た方だそうですが、いやー、確かな演出力をお持ちです。今後が楽しみな監督です。
曖昧な、モヤモヤが残るようなラストも、これまたこの作品にふさわしいもので、何とも心に残るものとなっておりました。
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