「恐怖の報酬」オリジナル完全版:純粋映画のコクと風味 #恐怖の報酬
ウィリアム・フリードキン監督版『恐怖の報酬』の「オリジナル完全版」が再公開されてます。1978年の日本公開時には29分も短縮されたカット版が上映されていただけに、これを再び大スクリーンで観られるのは嬉しい驚きです。
「再び」というのは、公開初日に渋谷パンテオンで観ているから(というとトシがわかっちゃいますが)。そして「驚き」というのは、全くヒットしなかった(どころか2週打ち切りぐらいだったのでは?)作品だから。
小生の感想としても、アンリ=ジョルジュ・クルーゾー版の剛腕骨太な悪魔的面白さに較べると、拍子抜けするほどあっさりしてて盛り上がりがなく、ちょっとがっかりしたものでした。
で、改めてこの121分の完全版を観ると、これはこれで魅力的です。クルーゾー版とは全く違う「競技」をやっているんですね。
カットされていた導入部で、4人の訳あり男たちがここに流れ着いたいきさつを説明しています。確かにここは切りたくなりますよねえ。でもこれがあることで作品が肉厚になるというか、「単なる不出来なアクション映画」ではなくて、人間の運命みたいなものが浮かび上がって来て、映画が格段にどっしり、しかも「魔」を孕んだものになるのです。なるほど。
アクションもサスペンスも、現代のCGを多用した過剰なまでの映像に較べると、なんてことありません。でも、映画のコクとしては、十二分に堪能できるのです。映画としての「絵」が、またいいんですよねえ。
まやかし無しの実写の力があります。本当に爆破して、本当に火を燃やしている迫力や味が映画の推進力となっているのです。そして、血生臭さと狂気。そして、タンジェリン・ドリームの呪術的な電子サウンド。さらには、ロイ・シャイダーの虚無感!
とにかくCGがまだ無くて、映画が純粋に映画だった時代の風味がクセになる作品だと言えるでしょう。めっぽう凄くなくても、めっぽう面白くなくても、映画を味わうとはこういうことだって感じです。
こういう大ヒット作、超名作以外の映画館でのリバイバルがちょこちょこ増えているのは、嬉しい傾向ですね(先ごろは『まぼろしの市街戦』やってましたし)。
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