「つつんで、ひらいて」:物質としての本を支える装幀 #つつんでひらいて #菊地信義 #装幀
映画『つつんで、ひらいて』は、ベテラン装幀家・菊地信義の仕事ぶりを追ったドキュメンタリー。なにしろ40数年の間に1万5千冊を超える本の装幀をしたというのですから、驚異的な人です。
この人のブックデザイン作業は、実に古典的。アナログな手作業の世界です。写植文字(まあ、今はさすがにパソコン文字でしょうが)を切り貼りする世界。PCの操作はオペレーターに任せて、自分は判断と指示に徹するというスタイルなのです。長い年月続けて来たやり方なのでしょうね。
実に細かいニュアンスの微妙な差異にこだわっての仕事が続きます。99と100のせめぎ合いだとか、1mm上げるとか下げるとか、4文字中2つの文字にだけ長体3%をかけるとか、感知できるかできないかギリギリのラインで、作品の精度を上げる試みが繰り広げられます。ただただ経験に裏打ちされた「感覚」の成せる判断。観ていて、とても興味深く引き込まれます。
弟子にあたる切れ者の装幀家・水戸部功のインタビューも、かなりの尺で収めれれているのですが、この人の作品も菊地氏の作品に負けず劣らず素晴らしいものです。この二人の関係性や、言葉も面白かったなあ、互いを認め合っていることがわかりますし、だけどライバルとして火花の散る部分もあるという…。
監督の広瀬奈々子さんは、今年『夜明け』で監督デビューしたわけですが、あの作品にはさほど感心しませんでした。でもこちらは素晴らしいです。題材の面白さが大きいとは思いますが、しっかりした手際で94分の映画にしてあります。「お仕事映画」です。
終盤に印刷会社の工場や製本所で立ち合いをする場面がありますが、いやー、これがまた面白いんです。物質としての本を作り上げるために、ここまでの技術とここまでのこだわりがあるという、多くの人々の真摯な努力があって、書店に並んでいる本があるという説得力のある映像が撮れています。もっとも、最近は書店に並ばないで、直接倉庫から届けられる本が多いわけですが…。 この作品を観ると、やっぱり紙の本はいいもんだと改めて認識せざるを得ません。本ってコンテンツだけじゃなくて、紙の手触りや本の重さや紙をめくる音やフォントや、パラパラと見られる「一覧性」などを含めて素晴らしい物体ですもんね。スマホやタブレットだけでは、味気なくって・・・そんなの文化じゃありませんやね。
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