「象は静かに座っている」:寂寞たる長回し #象は静かに座っている #フーボー #長い映画
映画『象は静かに座っている』は29歳でこの作品を生み出し、完成後に自殺してしまったフー・ボー唯一の監督作。なんと3時間54分(休憩なし)もあります。昨秋にタル・ベーラの『サタンタンゴ』(7時間18分+休憩2回)を観ている大江戸なので、もう免疫がついていて、臆することはありませんでした。でも、やはり「修行」のような映画鑑賞となりました。だって、暗くて辛い「極北の」物語ですから。
師と仰ぐタル・ベーラから影響を受けたに違いない長回しショットが続きますが、多くの場合歩く人物を背中から撮って、追っていきます。普通そういう場合正面から撮りますけど、この映画では(ドキュメンタリーでもないのに)人物を正面から撮るのが怖いのかのように、背中ショットが多いのです。
主な登場人物である高校生男子も、高校生女子も、おじいちゃんも、チンピラ男も、みんな哀しみに彩られています。みんな自分が悪いわけでもないのに、辛い状況に陥っています。その上、何かが起きるたびに、(自分の行動のせいでもあるのですが)事態は悪い方へ悪い方へと転がっていきます。彼らを取り巻くのは、団らんとか楽しさとか愛情とかとはまったく無縁の、寂寞たる世界です。それを表すかのように、画面は終始冬枯れの寒くてどんより曇った光景ばかりを映します。救いや希望は、あろうはずもありません。
うーん、こんな暗い世界観の監督なら、自死を選ぶのも不思議ではないと思ってしまいますよね。なので、観ていて楽しくないし、辛いんですよ。だから大江戸は好きではありません。高くは評価しません。長回しによってこそ表現できる感情ってもんはあります。ただ、小生としてはこの監督に「映画には省略っていう技法もあるんだよ」と伝えてあげたい気持ちです。
時代を表現した映画というよりは、あくまでもフー・ボー監督の内面を表出した映画。我々は、その荒涼たる景色に震えおののくしかないのです。
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