安部公房の「飛ぶ男」と「題未定」 #飛ぶ男 #題未定 #安部公房 #新潮文庫
昨日、映画『箱男』について書いたときに、安部公房のファンであるとカミングアウト?した大江戸ですが、嘘じゃない証拠に…
この春、2か月連続で新潮文庫から安部公房作品が刊行されたんですよ。「生誕100年」ってことでのようですが、これって結構凄いことだと思っております。1993年に68歳で急逝した安部公房ですが、もう1-2年長生きしていたら、ノーベル文学賞が取れていたと思い続けている大江戸です。今般、改めてその思いを強くしました。
まずは『飛ぶ男』。1993年に急性心不全で急逝した後、フロッピーディスクの中から発見された作品だそうで、途中で絶筆となっております。電子データとして残された遺作というのは、日本文学史上初めてのことだったそうです。1994年1月に新潮社から刊行されたのですが、大江戸はなぜか読んでおりませんでした。
これがまさに安部公房テイストの、奇想とリアリズムがユーモアとエロティシズムを伴って、王道のフィクションとして展開する物語。いやー、「かなり面白くなってきたぞ」ってあたりまでで途絶えてしまったのが、なんとも残念至極。傑作になったに違いないのに!
もう一つ収められている作品『さまざまな父』は、倒れる直前の’92年12月に書いていた作品ということで、むしろこちらが「遺作」と呼べるかもと思ったりもします。こちらも中途半端な形で終わっていますが、『飛ぶ男』と同じ根を持つ作品であり、ぬけぬけとしたユーモアがとても面白いのです。
で、もう一冊は『(霊媒の話より)題未定 安部公房初期短編集』。安部公房は1948年に24歳でデビューしたのですが、この作品集にはデビュー前後(19~25歳)の未発表・未再録短編11編が収められています。
こちらは最晩年の『飛ぶ男』とは打って変わって、まさに「若書き」。未熟だし、率直に言ってヘタだし、後年とはスタイルもテイストもかなり違います。でも、若き安部青年の中にたまっていたさまざまなものを感じさせてくれて、興味深いといえば興味深い。粗削りで玉石混交の短編集です。
ただ、こうなると研究者や好事家のための本って感じで、よく文庫化したもんだって感じではありました。 久々に『砂の女』とか『箱男』とか『壁』を読み返したくなりました(でも、なかなか時間がないのですー)。
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