「敵」:老いることの不安と恐怖 #敵 #吉田大八 #長塚京三 #筒井康隆 #瀧内公美 #四宮秀俊
映画『敵』の広告等の題字は、「敵」という漢字の左側を反転させて違和感を与えております。なかなか有効なタイポグラフィーです(ただ、映画本編のメインタイトルは普通の字が出ておりました)。
大江戸の中では、吉田大八監督は低迷期に入ったものと考えておりました。だって、『美しい星』(’17)とか『騙し絵の牙』(’21)とかはかなりの失敗作でしたからねえ。でもこれは良いです。かなり良いです。
モノクロ画面の中、丁寧に描かれる元大学教授の端正な生活。その「規範」的なリズムが、どんどん混迷を極めていく異次元的描写の怪異な魅力と緊張感。いわゆる老人の「せん妄」状態のように、幻覚、幻聴、妄想が頻発して、現実と混濁していきます。そのシュールリアリスティックな恐ろしさ。それがアンソニー・ホプキンス主演の『ファーザー』のような方向ではなく、もっと生々しく、もっとアナーキーな方向に旋回していきます。観ていて、映画的な面白さを十分に感じると共に、嫌な緊張感が胸にたまっていく作品です。ある意味、老いていくのが怖くなる作品ですし、原作の筒井康隆も監督の吉田大八も、その不安を掘り下げていった作品なのでしょう。
久々に長塚京三を見ましたが、1945年生まれだというので今年で80歳なのですね。ちょっとびっくり。こんな風にインテリでダンディーな感じをナチュラルに醸し出せる俳優は、なかなか貴重です。 瀧内公美もハマってました。彼女の変化が、恐ろしくも切なかったですねえ。
『ドライヴ・マイ・カー』や『違国日記』などの撮影監督=四宮秀俊によるハイコントラストのモノクロ撮影も、この夢幻的な作品世界の醸成に大いに寄与しておりました。
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