2024年9月16日 (月)

「ナミビアの砂漠」:ザ・2020年代映画    #ナミビアの砂漠 #山中瑶子 #河合優実 #唐田えりか

6fb95c36e9c1c8dd 映画『ナミビアの砂漠』は、やけに評判が良いようですが、うーん、そこまで凄いかなあってのが正直な感想です。

確かに河合優実は凄いです。空恐ろしいほどノリに乗ってます。でも、『あんのこと』の彼女だって、甲乙つけがたく凄いわけで…。 で、本作はまぎれもなく「彼女を見る映画」なので、そういった意味では圧倒されます。

でも、監督・脚本の山中瑶子がどこまで凄いかというと、うーん、今一つ信用が置けないなあと思ってしまう大江戸は、旧世代ってことなんでしょうか? あのピンク色の部屋でルームランナーに乗りながらスマホを見てる場面みたいなトリッキーなことをもっとやってくれたら、かえって信用できるんだけどなあ。 ホン・サンスみたいなバカズームを見せたり、1970年代の映画やテレビドラマみたいなラフな映像を見せたりしているのは、あまり良いとは思えませんね。

しかしながら、2020年代を表す作品として歴史に残っていくのかも知れませんね。そういう匂いはあります。河合優実だって、時代のアイコンとして70年代の秋吉久美子や桃井かおりみたいになっていきそうな予感は強く感じます。そういう、時代を表す映画、時代を表す女優なのです(当世は「俳優」と書くことが流行りですが、あえて「女優」とさせていただきます)。

(以降少々ネタバレあり) そもそも何でこのタイトルなの??と気になって、いろいろ調べたらなんと!「ナミビアの砂漠(ナミブ)」とは現地の言葉で「何もない」ってことなんですってね! 知らねーよ、そんなの。あ、それでラストの中国語「ティンプトン=わからない」(こっちも調べちゃいましたよ)とも重なってるんだ。でも、映画の中で示されないそういうのって、反則ですよね。

終盤に唐田えりかさんが突然出てきてびっくり。彼女の役は「神様」ですね。だから、「あの人俺たちのこと知ってるよね」とか言われちゃうし、主人公カナの心を救うのです(素敵な言葉や、「キャンプだ、ホイ」の歌で)。

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2024年9月14日 (土)

「エイリアン ロムルス」:1,2作目の次に面白い    #エイリアンロムルス #エイリアン #リドリースコット #ケイリースピーニー

F9e858d9207120ae 映画『エイリアン ロムルス』は、正史としてはシリーズ7作目だそうですが、なんと1作目の『エイリアン』(1979年/リドリー・スコット監督)から45年も経ったのですねえ。でも、本作のプロデューサーでもあるリドリー・スコットが、45年を経ていまだに現役バリバリのトップ監督だってことの方がもっとオドロキです。

本作の監督は『ドント・ブリーズ』などのフェデ・アルバレスなのですが、シリーズ第一作へのリスペクトを感じさせつつ、全体的にいい仕事をしています。でも時として、チープなホラー演出があったりするので、そこはもっと品位を保ってほしかったなあ。あと、所どころ何がどうなっているのか的確に示せていないという描写の未熟さもありました。

設定上しょうがないのですが、やけに若い連中ばかりが宇宙船に乗っていて、一人また一人とやられていくので、なんか安っぽいスラッシャーにありがちな感じに見えて、そこもちょっと損してます。

でも、『エイリアン』シリーズの中では、第1作、第2作の次に面白いのではないでしょうか? まあ、『3』以降がドイヒーだってこともありますけど。

主役の女子=ケイリー・スピーニーって、昨年の『プリシラ』でプレスリーの妻を演じたあの彼女だったのですね。本作では化粧っ気もあまりなく、オードリー・ヘプバーンや筧美和子っぽく見えるときもあり、日本人好みのタイプですね。いかにも強そうなシガニー・ウィーバーよりも、戦闘美少女って感じでいいと思います。

 

 

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2024年9月10日 (火)

「ACIDE アシッド」:フランス人は傘をささない    #アシッド #映画アシッド #酸性雨の恐怖

Acide 映画『ACIDE  アシッド』は、フランス製パニック・スリラー。強烈な酸性雨が降って来るという、シンプルなワンアイディアだけの作品です。まあ、でも時代にマッチした作品ということも言えそうですね。

フランス製なので、ハリウッドもののように盛り上げたり、手に汗握る展開とかはありません。静かに淡々と、黙示録的な異変を描いていきます。トーンも暗く、絶望感に満ちています。暗鬱過ぎて、観てるのがしんどいです。

この主人公一家の少女もお父ちゃんも共感できない人物で…。父はエゴイストだし、酸性雨に当たった人が助けを求めても、絶対車に入れてあげません。こういうのって「フランス的」なんですかね? 日本映画だったら、ほぼ入れてあげるだろうし、入れてあげない悪者は後からひどい目に遭ったりしますよね。

娘の方はとにかく足手まといで、本当に邪魔。そもそも終盤で父親を襲った受難にしても、100%彼女のせいですもん。ひどいもんです。

そしてフランスの皆さんは、こんな恐ろしい雨が降っても傘をささないのでしたー。傘どころか、パーカのフードや帽子で頭を守ろうともしない。ビニール合羽の人が一人ぐらいいただけです。日本だったら、もっとガチガチに防備しますよ、絶対。お国柄の違いでは済まない気もしますけど…。

その昔、『魔鬼雨』(1975年)というアメリカ映画があったんですよね、小生は未見ですが。もっと人間がドロドロに溶けちゃうような見せ物ホラーだったはずです。そっちのが面白いんだろうなあ。

 

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2024年9月 9日 (月)

「愛に乱暴」:こわれゆく女    #愛に乱暴 #江口のりこ #こわれゆく女 #森ガキ侑大     

Ainiranbou 映画『愛に乱暴』は、先頃『お母さんが一緒』でも強烈な個性を見せた江口のりこ主演の不穏なホームドラマ(と言っていいのかな?)。

日本語的にはこのタイトルの「に」は、どういうことなんでしょう? そこは原作の吉田修一さんに聞いてみないといけませんね。でもこれまでも大江戸は吉田修一との相性が悪いからなあ。結局最後まで観ても、明確な答にはたどりつきませんでした。まあ、いろんな解釈が可能ってことなんでしょう。で、今回もまた吉田修一との相性の悪さは改善されませんでした。

序盤からずーっと、嫌な緊張感が続きます。不安で不穏です。穏やかで平穏に見える日常が、その空気にどんどん浸食されていって…。なにしろ周りの人々がことごとく主人公にストレスを与えていくので、感情を押し殺しながらそれに対応していく彼女が、少しずつ壊れていくのです。

いやー、ジョン・カサヴェテスの『こわれゆく女』じゃないけれど、その壊れ方のプロセスを見せていく映画なのですね。江口のりこが、それをしっかり演じていて、この演技には見応えがあります。そして彼女にストレスを与える面々=小泉孝太郎(髪形などの関係で、別人のよう)、風吹ジュン、斉藤陽一郎らの嫌な感じが絶妙です。

ただ終盤からラストがもの足りないし、好きになれる作品ではありませんねえ。 そうそう、小生は「森ガキ侑大」と監督名に「ガキ」を入れてるあたりが嫌だなあと思うのですが、「侑大」って「ゆきひろ」と読むのですね。読めねーよ。

 

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2024年9月 8日 (日)

「夏目アラタの結婚」:無理が多くて、終盤ゆるくて    #夏目アラタの結婚 #堤幸彦 #黒島結奈 

Natsumearata 映画『夏目アラタの結婚』の夏目アラタって、柳楽優弥の方だったんですね。黒島結奈のことかと思ってたんで、映画を観てまずそれにびっくりした大江戸です。

堤幸彦監督、久々ですね。普通に公開された映画作品としては、2021年の『ファーストラヴ』以来のようです。でもこの後はすぐに12月公開・のん主演の『私にふさわしいホテル』が控えております。ま、本作はマンガ原作ということであまり好き勝手にしてはおらず(堤色を出し過ぎると、炎上しちゃいますからね)、職人的に手堅くまとめております。

とはいえ、この物語ツッコミ所や無理がかなりあって、…そういう所にいちいちつっかからずに観た方がよろしいようです。荒唐無稽な世界に身を委ねましょう。でもさすがに、終盤のゆるさ、長さ、グダグダ感はダメですね。もっとテンポ良く料理しないとね。

黒島結奈演じる殺人容疑者の歯がガタガタで茶色くて、ひどいことになっております。これ演じるの、本人的にも事務所的にもなかなかでしょうね。でも、悪評高い『ちむどんどん』で評判下がっちゃったから(ほとんど脚本と演出のせいなんだけど)、こういう仕事もしっかりものにして、「災い転じて福と成す」っていう選択なのかも知れませんね。

佐藤二朗と立川志らくの芝居が、方向性は違えどそれぞれうっとうしかったなー。

あと、死体損壊とか、けっこうエグイ描写もあります。苦手な方は要注意。

 

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2024年9月 3日 (火)

「カルロス ザ・サンタナ・ジャーニー」:もっと演奏シーンを!    #カルロスザサンタナジャーニー #サンタナ #映画サンタナ

Caelos 映画『カルロス ザ・サンタナ・ジャーニー』は、昨秋に2日間だけひっそりと限定劇場公開された作品。大江戸も行きそびれていたのですが、WOWOWで見ることができました。

何を隠そう、大江戸はその昔サンタナのファンだったのです。あのロゴ(2種類)を今でもすぐに手書きできます。中野サンプラザでの公演にも行きました。ただ、その後だいぶ長いこと「お見限り」状態だったことも事実です。アルバム『スーパーナチュラル』のヒットなんかも、喜ばしくは思っておりましたが、それほど熱狂することもありませんでした。

で、本作を見て思ったのは、「もっと演奏シーンを見たかった」ってこと。速弾きも、あの「顔で弾く」官能的な単音伸ばしも、もっともっと見たかった(聴きたかった)。どの曲も、短くブツ切れになっているのが残念でなりません。

その分、「家族の映画」になっているわけです。ヴァイオリニストだった父の薫陶を、ちょっとだけ受けてるわけですね。妹が語る昔話なんかも面白かったっです。でも、音楽もの(アーティストもの)ドキュメンタリーとしての出来は、あまり芳しいものではありません。

ウッドストックでセンセーションを巻き起こした演奏は、なんとドラッグでクラクラになっていたからこそだったそうで、びっくり。そこから数年後には宗教にドはまりして、今に至るわけです。人間的ではあるけれど、ある種「聖人」のように見えることもありますもんね、カルロスって。久々に、サンタナを聴き返してみたくなりました。

 

 

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2024年9月 2日 (月)

「リンダはチキンがたべたい!」:独創的で色はキレイだけど…    #リンダはチキンがたべたい #下高井戸シネマ

Lindachicken 映画『リンダはチキンがたべたい!』と変換しようとしたら「リンダは遅筋がたべたい!」になってしまった小生のPCどうよ? あ、ちなみに筋肉は速筋と遅筋に分かれており、マラソンなど持久力が必要な運動に向いているのは遅筋の方です。チキンは遅筋にいいのかなあ?

まあそれはともかく、かなり独創的なアニメーション。デッサンのような線画で、その中に淡色の色面を入れ込んでいくという…。しかしながらその色彩が美しくて、いかにもフランスの日常に入り込んだアートって感じ。フランス映画がこれを作ったってことは、高畑勲が『かぐや姫の物語』を作ったことと同じですよね。残念ながらあんまり面白くないのも、両作品の共通点。

地下鉄やら何やらのストから始まるあたり、まさに『地下鉄のザジ』へのオマージュなのですが、大江戸はやっぱり『ザジ』の方が好き。女の子の魅力だって、ザジの方が上です。本作のリンダは、けっこう厄介な子でして…。ま、そういうキャラが好きな人も世の中には多いようですけどね。

そもそもリンダがニワトリを抱えて、「私が殺す」と言ったり、どの締め方がいいかの話をしたりするあたり、日本でやったらかなり炎上しそうですよね。やはり狩猟姻族であり、長い歴史を持つ食文化が浸透している国だなあと感じ入りました。あ、あと多民族国家ってこともよく現れておりました。やはり映画は時代や地域の特質を映し出す鏡ですね。

4月の公開からずいぶんたって、ようやく下高井戸シネマで観たのでありました。こういう「二番館」的シアターの存在は、本当にありがたいです。

 

 

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2024年9月 1日 (日)

「至福のレストラン 三つ星トロワグロ」:もっと観たい食文化の4時間    #至福のレストラン三つ星トロワグロ #トロワグロ #フレデリックワイズマン 

2e4f3ff0be691e83 映画『至福のレストラン 三つ星トロワグロ』は、94歳の巨匠フレデリック・ワイズマン監督による240分のドキュメンタリー。ちょうど2時間たったところで、10分の休憩が入りました。でも、全然長く感じられません。終わった時に、「もう終わりかー。あと2時間ぐらい観ていたかった」と思いましたもん(チーズ生産過程と葡萄畑の土壌話の所だけ、ちょっと眠かったかな)。

なにしろこのレストランは55年間もミシュランの三つ星をキープしているというのですから、只事ではありませんね。そんな名店とその裏側を、4時間びっしりと見せてくれます。いつものワイズマン流で、字幕とかスーパーインポーズとかナレーションとかは一切使いません。撮って、つなぐだけ。でもそれが面白いんですよねー。

トロワグロの三代目=オーナーシェフのミッシェルさんがまあ、しゃべるしゃべる。料理が運ばれて来てお客さんが食べたそうにしているのに、しゃべるしゃべる。この人25歳ぐらいの頃に日本料理に感化されたようで、本作中の料理にもやたらとシソが使われていますし、息子も醤油(香川県のかめびし醤油)を使っています。ミキモトに関するエピソードも語られておりました。

改めて「食は文化」だと思うと共に、どの国の人にも変わらない部分ってあるなあと感じる点も多々ありました。最晩年と言っていいワイズマン、またしても良い仕事しましたねえ。ただ、観終えた後で「フレンチ食べたい」とか思わなかったのが、我ながら不思議。もう目から「おなかいっぱい」になっちゃったんでしょうか? (ただ、いいワインは飲みたくなりました。)

 

 

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2024年8月31日 (土)

「きみの色」:予告編は最高だったが…    #きみの色 #山田尚子 #ミスターチルドレン #テルミン

Kiminoiro 映画『きみの色』は、『けいおん!』『聲の形』『リズの青い鳥』などの山田尚子監督作品。高校生たちのバンドものではありますが、絵もテイストも『けいおん!』とは全く違っています。あたりまえと言えばあたりまえですが。

ふんわりとした世界です。良い人揃いで悪人は出て来ないし、大きな事件も起きないし、大した葛藤もありません。こういうの、大江戸は大好きなはずなんです。でも、なんか惹き込まれなかったんですよねえ。映像はとても気持ちの良い色彩が目に優しく、素晴らしかったのですけれど…。

思えば、予告編が最高でした。きれいな色の花や光、親しみやすく可愛らしいキャラクター、素敵な台詞やナレーション、ミスチルの主題歌(『in the pocket』)が明るくも感動的、と絶対ベストテン級の作品だと思ったんですけどねえ。悪くはない、むしろ良いのですが、「中ぐらいに」良いだけなんです。

言いたかないけど、やっぱり「物語が弱い」ってことでしょうか。物語なんかなくてもいい映画はあるはずだというのが大江戸のスタンスですし、山田監督もその実証のために本作を作ったのだと思うのですが、うーん、 どのパートも悪くはないんですけど、やっぱり「突出したものがない」って所が、心にガツンと来なかったのかも知れません。 穏やかな表現でもいいんです。でも、予定調和を突き崩すほどの何か「とんでもないもの」が一つ欲しかったなあ。

それはそうと、メガネ男子がテルミンを演奏するのでびっくり。ちょこっとだけテルミンをたしなんだことのある大江戸にとっては、正確な描写に「ほう」と思いながら、演奏意欲をかきたてられたのでありました。

 

 

 

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2024年8月29日 (木)

「箱男」:執念の企画だというけれど…    #箱男 #安部公房 #石井岳龍 #白本彩奈

Theboxman 映画『箱男』は、安部公房の1973年作品の映画化。『砂の女』も『他人の顔』も『燃えつきた地図』も映画になっているけど、これは初の映画化。そもそも1997年に今回と同じ石井岳龍(当時は石井聰亙)監督・永瀬正敏主演でクランクイン前日に中止となった企画だそうで、ようやく27年後に念願かなったわけです。執念の企画ですね。

しかーし、出来上がったものはかなりドイヒーなのでありました。何を隠そう小生は安部公房のファンで、学生時代にあらゆる作品を読み尽くしたのだりますが、「これって違うよねえ」という感じが終始つきまといました。まあ、その分石井岳龍作品になっているということかも知れませんが、この人もいい時と悪い時の振幅が大きい人で…、今回は悪かったですねえ。

石井監督が昔、安部公房から「コメディ―にしてほしい」と言われたそうですが、うーん、こういうことではないんじゃないかなあ。やはり石井監督のテイストと、安部公房の(あるいは、この作品の)テイストがミスフィットだったんじゃないかという気がしてなりません。

でもそれはそうとして、箱男同士のバトルシーンなんか、あまりにも滑稽で笑えましたよ。シュールだなあ。

オーディションで選ばれたという白本彩奈が、永瀬正敏、浅野忠信、佐藤浩市という只ならぬメンツを相手に堂々とした役者っぷりでした。今後伸びる人だとと思いますよ。

 

 

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