2025年11月 1日 (土)

「おーい、応為」:長澤×永瀬の芝居合戦    #おーい応為 #大森立嗣 #長澤まさみ #永瀬正敏 #葛飾北斎と応為

Oui 映画『おーい、応為』は、葛飾北斎の娘「応為」が主人公ですが、北斎の比重も大きくて、この父娘のユニークな関係性を描く作品なのでした。

大森立嗣監督作といえば、ダークだったりバイオレントだったり屈折していたりする作品が本筋だと思っているのですが、本作は『さよなら渓谷』や『日々是好日』などと同じ数少ない「正統派」グループに属します。で、とにかくしっかりした映画作りが成されています。一つ一つのショットが揺るぎいというか、映画的映像の強度が高いのです。そんな中、無音のシーンが多かったり、一方でトランペットを効果的に多用した大友良英の音楽が上出来だったりして、絵も音も一流なのです。

そしてもちろん役者も。小生は特に長澤まさみのファンではなく、彼女と大森監督が組んだ『MOTHER マザー』でも、力演は認めるけどちょっと「作ってる」感があるなあと思っておりました。でも本作の長澤は素晴らしいですよ。男きものの着こなしで、自分のことを「オレ」と呼び、それはもうシャキシャキと「男前」なのです。そして、やけにキレイです。いずれにしても、この役に「魂」が入っていると感じられました。

北斎を演じる永瀬正敏も、素晴らしかったです。もう長いこと、「永瀬といえばこんな感じ」って具合に「謎めいた曲者の雰囲気」を出すためだけに使われることばかりだったと思うのですが、ここでは台詞の発声を含め、演技力を遺憾なく見せつけておりました。その上、徐々に老いていき90歳までを演じるという、芝居の見せ所たっぷりの役。長澤との掛け合いも最高でした。

でも、北斎や応為の創作活動の細部や作品にまつわる部分は割と淡白な見せ方。ここらへんにもっと力を入れて、芸術家映画にしてもらえたら、もっと面白かったろうにと、残念に感じた大江戸なのでした。

 

 

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2025年10月29日 (水)

「罪人たち」:多ジャンルごった煮が成功せず    #罪人たち #マイケルBジョーダン 

Sinners 映画『罪人たち』は、今年6月の公開作ですが、ようやく下高井戸シネマで観ました。やけに評判が良かったもんで。あ、ちなみに「ざいにんたち」ではなくて、「つみびとたち」と読むのです。

音楽映画にして、黒人映画にして、社会派映画にして、ホラー映画にして、犯罪映画にして、アクション映画という様々なジャンルがごった煮になった作品で、物語がどう展開するのかが読めません。でもこの不思議なミックスってのが、裏を返せばどの要素も中途半端ってことで、大江戸はあまり気に入りませんでした。

画面は重厚で、密度と深みがあって、素晴らしい絵作りができているんですよ。音楽はこの作品のキモで、さすがのブルースを聴かせてくれるし、衣装や時代再現のクォリティも高いのです。

でも大江戸にとっては、マイケル・B・ジョーダンをはじめとする役者たちが魅力薄だし、物語もなかなか動き出さずに、土地や人物の説明にかなりの時間が費やされているし、クライマックスにしても大したことないし、面白くなかったなあ。

話題の「時空を超えた演奏シーン」が唯一新しい試みとしては注目に値するけど、「でもこれってどうなの?」「違和感たっぷりなんじゃないの?」ってのが大江戸の本心です。

エンドロールの途中と最後に重要なおまけシーンがついてます。そこの味は捨てがたいので、急いで席を立つことのないようにね。

 

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2025年10月28日 (火)

「代々木ジョニーの憂鬱な放課後」:今回は不完全燃焼    #代々木ジョニーの憂鬱な放課後 #木村聡志 #日穏 

Yoyogijohnny 映画『代々木ジョニーの憂鬱な放課後』は、昨年の快作『違う惑星の変な恋人』の木村聡志監督の新作ってことで観ました。うーん、今回は不完全燃焼かなー。「代々木ジョニー」っていうへんてこなネーミング・センスはさすがなんですけど…。

ミスマガジン人たちを映画に出すって企画なんだそうですが、うーん、正直その方々にあまり魅力は感じませんでした。こんな感じで、企画として大丈夫だったんでしょうか? 一方、主人公代々木ジョニーに扮する日穏(KANON)は、無駄にイケメンで、笑わぬ喜劇役者バスター・キートンのようで、悪くなかったです。

ただ、108分もいらない話なので、無駄なシーンも多く、テンポも悪く感じました(オフビートな味わいってだけではなくてですね)。それから、日本スカッシュ協会(だっけ?)に協力してもらってる割には、ほとんどまともに競技を写してなくて、「これでいいんですかい?」と心配しちゃいましたよ。

序盤の部室シークェンスの会話なんかは、いかにも木村ワールドで、「そう、これこれ」とクスクス笑えたんですよ。でも、その後が意外と笑えないことが多く、エンディングなんかもかなり意味不明。 一番最初に観た木村聡志作品がこれだったら、今のようには評価しなかったでしょうね。

でも、綱啓永や中島歩が『違う惑星の変な恋人』で演じたキャラクターとして出て来て、「木村聡志シネマティック・ユニバース」を広げてくれたのは嬉しかったです。

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2025年10月26日 (日)

「フランケンシュタイン」:新解釈と映画美と格調    #フランケンシュタイン #ギレルモデルトロ #ネットフリックス #ネトフリ作品の劇場公開

Frankenstein ネットフリックスのギレルモ・デル・トロ版『フランケンシュタイン』が、11月7日からの世界配信を前に、10月24日から一部劇場で公開ってことで喜ぶ大江戸。シネマート新宿で鑑賞いたしました。

それにしても地味にひっそり公開してるので、気づかない人も多いのでは? 小生は『新幹線大爆破』の劇場公開を観たときに、ネトフリつながりて予告編が流れていたので(『ジェイ・ケリー』もね)知ったのです。とはいえ、劇場の客入りは結構良かったです。

いやー、想像以上の出来栄えです。映像のクォリティの高さに圧倒されます。大きな製作費をかけて作っていることによる絵の「厚み」が出ております(ネトフリさん、お金持ちですから)。まさに映像美(むしろ「映画美」)というかゴシックホラーの絵で、格調さえ感じさせます。これまでのデル・トロ作品の中では一番(『シェイプ・オブ・ウォーター』よりも)評価したいかも知れません。本人も念願の企画だったそうですし。新解釈の部分もありますが、とにかく面白い。

Frankenstein2 モンスターの造形も、過去のどの作品の怪物にも似ていないけど説得力のあるユニークなもの。終盤に至っては、ロックスターのようなイケメンぶりであります。

2時間29分をダレ場なく駆け抜けます。死体描写とかがハードではありますが、下品に堕すことはなく、光と影の映像美や、美術のアート感覚を堪能させてくれます。まあ、ただミア・ゴスはこういう普通の役に使っても面白くありませんね。

(以降少々ネタバレあり) これまでのフランケンシュタイン物語の映画化ともメアリー・シェリーの原作小説とも違う結末を用意しましたが、美しい物語になっており、大江戸は好きですね。やけにすがすがしくて、びっくりなのでありました。

 

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2025年10月25日 (土)

「ミーツ・ザ・ワールド」:オタク・イン・ワンダーランド    #ミーツザワールド #金原ひとみ #松居大悟 #杉咲花 #南琴奈 

Meetstheworld 映画『ミーツ・ザ・ワールド』は、金原ひとみ作品の映画化。監督は今年『リライト』も公開された松居大悟。

歌舞伎町映画です。夜と昼の歌舞伎町各所および隣接するゴールデン街や花園神社も出て来ます。でも、これまでしばしば描かれたようなヤクザや中国系マフィアは出て来なくて、キャバ嬢とホストと小説家の中に腐女子の銀行員が放り込まれた感じの、オタク・イン・ワンダーランドな物語。

悪くはないんですけど、ちょっと終盤ペースダウンして重いかなあ。126分かけるまでもない物語だと思います。終盤の杉咲花とある人物の電話シーンが長過ぎたし、ちょっと杉咲の熱演が鼻につきました。いや、彼女がめっちゃうまいことは最初からわかっているのです。なのに、ああいう熱演までしちゃうと、ちょっとトゥーマッチ。序盤から中盤にかけてのオタク演技にも、いやこのキャラクターにも、ちょっとイラっとさせられましたし。

それに比べて、小生が知らなかった南琴奈はいい感じに自然体で役になり切っていました。覚えておかなきゃ。 そして、ゴールデン街のマスターを演じた渋川清彦さんが、これまでにない味を出していましたね。

ただ、アニメの幻想を実写に絡めたりする手法は、どうにも違和感がありました。ここは松居大悟としても、チャレンジしたもののうまくいかなかったんじゃないでしょうか。

(以降ネタバレ全開) エンドロールに菅田将暉の名前があってびっくり。どこに出てたの?と思ったけど、たぶんあの終盤の電話の「声」だったのでしょうね。ある意味贅沢でびっくりしました。

 

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2025年10月20日 (月)

「見はらし世代」:家族の確執がめんどくさくて嫌    #見はらし世代 #団塚唯我 #黒崎煌代 #遠藤憲一 #ミヤシタパーク

Miharashi 妙に評判の良い映画『見はらし世代』は、観ていていろいろと気分の良くない作品でした。そもそもどういう意味、このタイトル?? 何で「見はらし」? 団塚唯我監督の言葉によると、“Brand New Landscape”という英語題が先にできていて、彼の中ではそのタイトルとの齟齬がないそうですけど、いやー、一所懸命想像してもわかりません。

作中で描かれるのは、父と子の確執。それがとっても嫌な感じというか、この青年のこじらせ具合がとっても不快。小学生の頃は素直にリフティングしていたのに、ずいぶんとひねくれちゃって…。しかも演じる黒崎煌代の声が異様に低くて、しかも滑舌が悪くて、申し訳ないけど聞くたびに生理的にぞっとしてしまいました。

なので、お姉ちゃん(木竜麻生)みたいにさらっと他人スタンスになっちゃえばいいのに、この子はめんどくさいなーと、うんざりしてしまうんですよ。この映画って、団塚監督の父(建築家の団塚栄喜氏)との自伝的要素も強いみたいですけど、家族内のめんどくさい確執を見せられても、観客としては居心地が悪いだけです。だいたい渋谷ミヤシタパークの再開発を、「ホームレスを排除した」って点だけで非難されてもねえ…。

建築家の父親役は遠藤憲一ってことで、タイプキャスティングを外してきたんでしょうけど、うーん、エンケンさん、建築家には見えないよー。空気に違和感あり過ぎです。

(以降少々ネタバレあり) 終盤のファンタジー的場面も、本作の勝負所なのでしょうけど、奏功してませんねー。でも、こういうオリエンタルマジックに騙されちゃうんでしょうね、海外の映画祭の審査員たちって。

ラストというかエピローグの「LUUPに乗る若者たち」も、ほとんど意味不明。自動車よりも見はらしが良いってことなんですかい??  だったら、渋谷の風景だけの映画でも良かったです。

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2025年10月18日 (土)

「チェンソーマン レゼ篇」:一見(いちげん)でも面白い    #チェンソーマンレゼ篇 #チェンソーマン 

Chainsawman 映画『チェンソーマン レゼ篇』を観ました。上映時間のタイミングで、観てもいいなと思った作品がこれしかなかったものですから。大江戸は原作マンガもTVのアニメ版も見ていないので、まったくの一見(いちげん)。それでも観ていいものなのかと迷ったものですから…。

で、面白かったですよ。最初の5分ほどは世界に入り込むのに難儀しましたが、その後はぜんぜん気にならなかったのです。『チェンソーマン』の世界を堪能したなどとは絶対に言えませんが、素直にこの『レゼ篇』の世界を楽しむことができました。チェンソーマンのビジュアルって、ヴェノムみたいですね。

学園ものラブストーリー(ラブコメ)であり、パワフルなアクションであり、血肉飛び散るスプラッターであり、スリリングなホラーであり、哲学的なフレイバーもふりかけてあり、様々なジャンルの融合体として「いろんな味」を楽しめるのです。

というわけで、細かい所まではわからないけど「なんとなくわかる」って感じ。それでも面白いってのは「作品の力」だと思うわけです。アクションシーン、バトルシーンのスピードや飛翔感やカラフルな幻想みたいな描写は、ドラッグ感覚と言えるようなぶっとび表現でした。

それにしてもこれ、暴力的(残酷)でエッチな「サービスカット」もあって、海外からは「日本のアニメって…」と非難されちゃうやつですね。一応日本でもR-12指定になってはおりますが…。

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2025年10月17日 (金)

「グランドツアー」:苦行のようなつまらなさ    #グランドツアー #ミゲルゴメス #今年一番つまらない映画

Grandtour 映画『グランドツアー』は、今年観た最もつまらない映画です。いやー、ひたすら眠かった。わけわからなかった。つまらなかった!

監督はポルトガルのミゲル・ゴメス。大江戸はこの人の作品は初めてですが、もう他の作品も観たくないですね。なんでカンヌの監督賞はじめ多くの賞に輝いているのか、大きな謎です。多くの場合は「自分の見方がまだ未熟なんだろう」「見る目が足りないんだろう」と考える謙虚な大江戸ですが、この作品に関しては一切そう思いません。これ、つまらないよと自信をもって言えますね。「金返せ」レベルです。

1918年って設定なんですが、モノクロ、カラーを取り混ぜて、東南アジア6カ国の現代の映像も「普通に」混ざってます。 なんで?? そんな奇策を弄した意味がわかりませんし、それが何の効果も生んでいないところが凄いです。いったい何をしたかったのでしょうか?

しかも、それぞれの国の映像も、何の感興も生みません。この程度で「映像美」とか言われても、ちゃんちゃらおかしいです。日本のシークェンスで、ドン・キホーテや道頓堀や猿の温泉を見せられてもねえ…。旅番組の映像の方が感動できちゃいますって。 その上、カラオケで『My Way』を歌って、自分で感極まって泣いちゃうおじさんとか見せられてもねえ…。

早く終わることだけを祈り続けた、苦行のような129分の旅でした。

 

 

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2025年10月16日 (木)

「秒速5センチメートル」:木竜と森と宮﨑の魅力    #秒速5センチメートル #奥山由之 #木竜麻生 #森七菜 #宮﨑あおい 

5cmpersecond 映画『秒速5センチメートル』は、2007年の新海誠監督のアニメーション作品を実写映画化したもの。でも、小生はアニメ版をまだ観ていないのです。

実写版の監督は奥山由之。昨年の『アット・ザ・ベンチ』で、その良さと悪さを両方垣間見て、「映画監督としては弟の奥山大史(『ぼくのお日さま』)の方が上だよなあ」と思ったものでした。で、観終えてもその思いは変わりませんでした。

何か岩井俊二作品のような雰囲気なのです。由之監督はもともと写真家なので、映像にはこだわっています(それがどれだけアニメ版の影響下にあるのか、それとも独自のものなのかはわからないのですが)。清くやさしく美しい世界であり、作品です。

でも、この繊細で純粋培養的な松村北斗を見ていると、「君、そんなんで大丈夫?」「これからタフに世の中を渡っていける?」などと考えちゃいます。大江戸も年を撮り過ぎましたかね。まあ、恋愛に関する男女の違いを描く物語でもあるので、それはそれでいいんですけどね。

で、本作で良かった俳優は、松村と高畑充希という主演のふたりよりもむしろ周りの人たち。とりわけ、木竜麻生と森七菜と宮﨑あおいの三人です。メガネで地味な木竜麻生は、彼女史上のベストでは? メガネっ娘ファンに訴えかけてきます。 一方、24歳にして高校生の純情を無理なく演じた森七菜は今、役者として乗ってますねえ。 そして、もうすぐ40歳になる(!)宮﨑あおいは、最近役者業に復活してきたので、ファンとしては嬉しい限り。年齢不詳の若々しさ=永遠の童女のような雰囲気がいいですねえ(マクドナルドのCMも、いつもステキすぎます)。まあ、この三人を見ることができたので良しとしよう、そんな映画でした。

 

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2025年10月15日 (水)

「アフター・ザ・クエイク」:気負ったゲイジュツ風    #アフターザクエイク #村上春樹 #唐田えりか #鳴海唯 #のん #大友良英

Afterrthequake 映画『アフター・ザ・クエイク』は、もともとNHKで今年4月に4回シリーズで放映されたドラマ『地震のあとで』のイッキ見的作品。実際、30分ドラマ×4本をほとんど削らず足さず1本にまとめた感じ。大江戸は、第2話(鳴海唯と堤真一のエピソード)以外の1、3、4話は見ていたのですが、各エピソードをつなぐ部分をちょっと加えたぐらいで、印象としてはTV版と同じだなあって感じでした。あ、村上春樹の短編集『神の子どもたちはみな踊る』から4つのエピソードを拾い出しての映像化です。

岡田将生と橋本愛の第1話は、4つの中でいちばん好き。なぜか、鈴木清順の『ツィゴイネルワイゼン』を観ているような不思議な気分になりました、北香那と唐田えりかの二人が不思議な味わいを出していて、特に唐田さんはミステリアスで良かったですよ。

鳴海唯と堤真一の第2話は、なんか中途半端。でも、鳴海唯って高校生ぐらいに見えたのに、もう27歳なんですね。そして、朝ドラ『あんぱん』で、のぶと同期で女性新聞記者になったあの人だったのですね。いやー、ずいぶん印象違います。びっくり。

渡辺大知と井川遥の第3話は、うーん、あんまり好きではありません。でも新興宗教の話だったりして、村上春樹っぽさはありますね。

そして第4話は、かえるくん(声=のん)の登場。これがあまりにも、リアルにでかいカエルで当惑してしまいます。こういう表現で良かったのかなー?と思わぬでもありません。まあ、みみずくんとの対決なんていう映像化不可能なものに挑戦しているのがえらいと言えるのかも知れないけど…。

第1話を観た時点では、「これ、今年のベストテンに入れてもいいかも」でしたが、全部観終えるとそんな気持ちはどこかに失せておりました。村上原作に負けないものを作るぞってんで、気負っちゃったんでしょうかね?あまりにもゲイジュツ風で…。 でも大友良英の音楽は、ジョニー・グリーンウッドみたいでイカしておりました。そういえば監督の井上剛さんって『あまちゃん』を手掛けていた人なんだそうですが、その線で大友さんと結びついており、橋本愛とのんも(直接ではないけど)共演してるってわけなんです。 

 

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