2017年3月26日 (日)

「ラビング 愛という名前のふたり」:物静かに語る

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映画『ラビング 愛という名前のふたり』は、異人種間の結婚を禁じる法律があった時期のアメリカ(バージニア州)の実話に基づく物語。たかが5-60年前の話です。 アメリカ大統領が人種差別をあおるような時代ですから、このような作品の意義は決して小さくありません。ただこの作品自体は、声高に主張するタイプではありません。静かに、淡々と、ただ「こんなこともあった」と伝えるのみです。

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レンガ積み職人のジョエル・エドガートンはブロンドの短髪にして、いつもとはだいぶ違った雰囲気です。悪役じゃないし。 でもこの主人公、見ててハラハライライラするというか、あまりにも無謀です。リスク管理なしに、危ないことをやっちゃう性格なんですね。頭の悪さとブルーカラーであることのコンプレックスで一杯のようですが、彼をなんとかコントロールして救っているのは、ほかならぬ妻なのです。

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そういったことも含めて、告発の物語だとか差別へのプロテストだとかいうよりも、これは夫婦愛の物語なんですね。その点においては、エドガートンの夫も憎めない奴ではあります。 こんな(頭脳より肉体な)タイプなのに、 決してわめき散らしたり暴力に訴えたりはしませんもん。まあ、良い相性の夫婦だったんでしょうね。

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二人が蒙る迫害や不条理もそこそこ(この手の映画にしては、それほどひどいわけではありません)。大抵は現実的な救いの手がもたらされます。裁判も、丁々発止の攻防戦が描かれたりはしません。なので、映画的には盛り上がりが無く、地味に終始します。まあそういう誠実なタイプの作品だとはわかっておりますが、それでももう少し盛り上げて欲しかったですねえ。そこらへんの通俗的な感動って、映画が長く後世に生き残っていくためには、結構重要だったりしますから。

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2017年3月24日 (金)

「チア☆ダン」:クリシェでベタで

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映画『チア☆ダン 女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話』は、典型的な『がんばれ!ベアーズ』タイプのスポーツ・サクセス・コメディ。つまり、ダメダメな寄せ集め集団+個性的なコーチ→挫折や人間関係のトラブルを乗り越えて→最後には大成功して、一皮むける っていう、誰にでも作れる物語構造です。

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実際、この脚本のクリシェ積み重ねぶりにはびっくりです。もう少し独自のものを入れましょうよって感じでした。構造としては安定しますが、やはりその中に新しいサムシングを入れ込むことがクリエイションってものではないでしょうか(偉そうにすみません)。

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しかも演出のセンスがベタで(ギャグもベタで)、コメディなのになかなか笑いにくいことも事実。広瀬すずの奔放や、天海祐希の過剰が生きません(むしろちょっと恥ずかしい)。

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ていうわけで、広瀬すずは精彩を欠きました。でもダンスに関してはアリス姉さんの「バニーダンス」(『新宿スワンⅡ』)よりは良かったです。それにしても「おでこ全開」が似合わなかったなー。前髪って大切ですよね。

むしろスラリとした中条あやみが素敵でした。真面目で努力家で、志を抱いて夢に突き進んでいて、良いではありませんか。こういうハーフっぽい顔だち、誰かに似てるんですけどねー。往年の藤谷文子あたりかしらん?

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2017年3月21日 (火)

「お嬢さん」:エロスとケレンと変な日本語

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映画『お嬢さん』は、独特のアクの強さが持ち味のパク・チャヌク監督による2時間25分の大作にして大怪作。先日『哭声 コクソン』のことも怪作だと言いましたけど、こちらも一歩も引けを取らない(いや、たぶん勝ってます)怪作です。この邦題自体が、かなりヘンな雰囲気を醸しております。

3部構成で、パワフルな通俗ドラマって感じなのですが、そこにパク・チャヌクらしい黒々とした人間の醜さだとかエロスだとか毒だとかをガンガンぶち込んじゃってます。

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高畑充希を美人にしたようなキム・ミニと、川口春奈を田舎臭くしたようなキム・テリが、あんなことやこんなことをやってくれちゃいます。そこらの官能や迫力ってことにおいて、さすがはパク・チャヌクです。只事ではありません。日活ロマンポルノ・リブート・プロジェクトの監督たちは、大いに見習ってほしいと思います。春画も色々と出て来ますし。

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男優二人は、往年の白竜を思わせるハ・ジョンウと、柄本佑が老けメイクをしたようなチョ・ジヌン(それにしてもあのボサボサ眉毛は何なんでしょう?)。なんか二人とも笑えちゃいますね。日本語のアクセントが、相当おかしいですし。でも、この変な日本語がクセになるんですよねー。

美術の仰々しい重厚さにも圧倒されます。でも仰々しすぎて、ちょっと笑っちゃうような・・・。全てにおいて、そういう世界なんです。「韓国の五社英雄」とでも言えるようなケレン味たっぷりの世界。まあ、嫌いではありません。

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(以降ネタバレあり) 第1部(1時間ぐらい)と第2部(50分ぐらい)で視点がひっくり返り、物語もひっくり返っちゃうあたりの面白さが、いいですね。パク・チャヌクらしいところです。 そして第3部(30分ぐらい)で、パク・チャヌクらしいヴァイオレンスを含めて、やりたいことをいろいろやってくれちゃいます。

そして大ダコです! 登場する春画の中にも大ダコが出て来ましたが、第3部で背後の水槽からはみ出さんばかりに、巨大なタコがのたくっておりました。当然、『オールド・ボーイ』が思い出されるわけです。それにしても、このタコはいかなるVFXなのでしょうか? デカくて、本物っぽくて、スゴイです。

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2017年3月20日 (月)

「SING シング」:きゃりーの曲にびっくり

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映画『SING シング』ですが、CMなどで日本語的に「シング」と言ってると、どうにもこうにも「寝具」を連想してしまうのです。ふとんとか枕とか・・・。

それはともかく、なかなか楽しいアニメでした。同じ動物キャラものとして、『ズートピア』ほどの深みや凄さは感じませんが、娯楽作として面白くできています。

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コアラ、トカゲ、ゾウ、ゴリラ、ブタ、ネズミ、ハリネズミといったキャラクターたちが、それぞれの個性を出して歌い、踊り、演奏します。個性は楽曲にも反映され、本作に使われた曲の数はなんと62(ほんの数小節のものもありますけど)! ザ・ビートルズからレディ・ガガまでのポップスやロックに加え、クラシックもオペラもジャズも網羅しています。

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われらがきゃりーぱみゅぱみゅも3曲使われていてびっくり。だって、全然知らなかったもんで・・・。 『きらきらキラー』『にんじゃりばんばん』『こいこいこい』で、どれもほんのちょっと(特に『こいこいこい』は短かった!)。でも、この事実って広告やパブリシティに全然出て来ないのですけど、なぜなんでしょう?いくら本人が歌っているバージョンでないとはいえ・・・。なんか裏には大人の事情がありそうですね。

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序盤のオーディション場面などは上出来なのですが、正直言って長めに中だるみがあります。でも予想通りクライマックスのステージ場面は、最高でした。「歌の力」が、よく表されておりました。歌唱力を味わう意味でも、字幕版で観て正解だったと思います。

早くも続編の制作が決まったようです。確かにツアーに出るとか、野外フェスをやるとか、ミュージカルをやるとか、色々できそうですもんね。

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2017年3月19日 (日)

「3月のライオン 前編」:映画としてのアプローチが成功

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映画『3月のライオン 前編』は、マンガ原作アニメ経由の娯楽映画として、よく出来ておりました。小生はNHKのアニメを(初期の数本を除いて)だいたい見ていましたが、そのストーリーを上手に映画の尺に収めておりました。ダイジェスト感がなくはないのですが、比較的それを感じさせない作品になっていました。そして、ちゃんと面白い作品になっていました。

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まあ残念だったのは、この作品の特徴であるコミカルな場面(&ニャーたちの出番)がほとんど無かったこと。ただ、あの表現はマンガやアニメだから可能なのであって、実写映像化した中でそれをやったら作品がブチ壊れてしまいますので、これはしょうがないところです。ま、特殊メイクで異様に太った(『聖の青春』の松山ケンイチとは別のアプローチですね)染谷将太が、コミカル部分は一手に引き受けておりましたが・・・。そういえば、染谷くんは『聖の青春』と本作という二つの将棋映画で、それぞれ重要なサブキャラを演じておりますね。

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有村架純は「初の悪女役」ってことで、お姉ちゃん(香子)を熱演してましたが、ある意味誰もが「ミスキャスト」だと思う役柄で、ちょっとかわいそう。「柄」ってもんがありますから、これは無理ってもんでしょう。

神木君も23歳で17歳の役ってのは、なかなか無理があろうかと思うのですが、彼は最高に「柄」が合っているので、なんとか成り立たせていました。

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役者で良かったのは、佐々木蔵之介、倉科カナ、高橋一生など。キャラクターに生き生きとした命を吹き込んでおりました。

将棋の対局場面は、戦う二人の顔のアップを多用することで説得力を持って描き切りました。駒の動きを説明していってもほとんどの観客は理解できないでしょうから、娯楽映画においてこれは正しいアプローチ。佐々木蔵之介の顔(表情演技)なんて、見事なもんでしたよ。どの試合も、なかなかの緊迫感と迫力が出ているのです。

さてさて、後編が楽しみですねえ。4月22日が待ちきれません。

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2017年3月18日 (土)

「哭声 コクソン」:なんだこりゃ?

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映画『哭声 コクソン』は、2時間36分のヘヴィーな怪作(でも、そんなに長くは感じられません)。これ、何なんでしょう?

凄惨な猟奇殺人現場に始まりながら、コミカルな笑える場面も数々あり、ミステリーかと思えばホラー、ホラーかと思えばオカルト・・・と、千変万化。でも終始嫌な感じが漂い、パワフルです。

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『チェイサー』のナ・ホンジン監督作ですが、『チェイサー』のようにストレートにスピーデイーな作品というわけではなく、謎が謎を呼び、何が正しくて誰が悪いのかがわからなくなるような複雑さです。人を食ったような、でも笑っていいんだか悪いんだかわからないような怪場面も多く、そういうところも複雑な味なのです。

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この作品で韓国の映画賞の助演男優賞に輝いた國村隼。ただ、割と普通に國村さんです。これぐらいは普通にできる人です。高く評価された理由は、血管が切れそうに熱演する韓国の役者たちと温度が違うからなのではないでしょうか。淡々とした低温の演技(でも序盤や終盤には、それだけじゃない怪演も!)。

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主人公のクァク・ドゥオンは昨年の『弁護人』での悪役が印象深かった人ですが、この人が主役だなんて、日本で言えば六角精児や黒田大輔や上島竜兵が主役を張るみたいなもんですからね。大胆です。

それにしても監督は何を描きたかったんでしょうねえ。考えても(考えなくても)よくわからない作品なのであります。

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2017年3月15日 (水)

「バンコクナイツ」:長編ドキュメンタリー風フィクション

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映画『バンコクナイツ』は、2011年に『サウダーヂ』でキネ旬ベストテンの第6位に輝いた富田克也監督と製作集団「空族」による3時間2分の大作(タイ作?)。とは言え、いかにも低予算で、でも時間をかけて、粘って撮っているって印象がします。

だけど大江戸の場合『サウダーヂ』にもあまりノれなかったのと同様、本作にもさほど惹かれるところはありませんでした。バンコクってこんな所なのかあという勉強にはなりましたが・・・。

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オープニングで、いきなり“Bangkok, sh*t!”と出て来て、「おお、これは『地獄の黙示録』かしらん?」と思いました(あちらは“Saigon, sh*t!”でした)。まあ「東南アジアでの、戦争を背景にした異界巡り」ってことにおいてはそう言えなくもないけれど、テイストは随分違いますし、カーツ大佐は出て来ません。

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あえて時間をたっぷり使って、ダラダラ撮っています。ドキュメンタリー風フィクションとも言えます。そこから浮かび上がって来るものもあれば、ダラダラの中に埋もれていくものもあります。タイの「沈没組」と言われる日本人男性たちが中心的に描かれるのですが、何ともはやな人たちです。

その一方でタイ人の女性たちはやはりたくましいのです。彼女たちから出ているエネルギーは、歴代の様々な娼婦ものの系譜に連なっています。

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でも、彼女たちの行動の中に「猥雑の中の宝石=瓦礫の中のゴールデンリング」的な輝きが描かれていなかったのが残念。映画としては、フィクションとしては、やはりそこが勝負どころではないかと思うのです(西鶴だって溝口だって清順だってそうですもんね)。

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2017年3月14日 (火)

「キセキ あの日のソビト」:松坂桃李が良いです

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映画『キセキ あの日のソビト』です。「ロシア あの日のソビエト」ではありません(すいません。言ってみたかっただけなんですぅ)。

真っ当な青春音楽サクセスストーリーのようなパッケージですが、なかなかどうしてヘンな映画でもあります。

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だって、外科医の父さん(小林薫)ったら、すっごい父権主義者で、鉄拳振るい放題。しまいには日本刀まで振りかざすって・・・これ見る限りだとほとんどマンガなのですが、果たしてどこまで実話に基づいているのでしょうか?

で、終盤まで観ていった時、「そんな怪物お父さんを作り上げてしまったのって、ひょっとしたらお母さん(麻生祐未)なのかもな」と思いました。このお母さんの場当たりな対応や無責任さがお父さんの暴君ぶりを増長させていったように思えてなりませんでした。

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兄役の松坂桃李が、これまでのヒズ・ベスト演技ではないでしょうか。このキャラクターの信念や理想や夢や屈折や挫折や憤怒や喜びや・・・様々な感情を体全体で演じて、訴えて来るものがありました。いや、良い俳優になりました。

一方弟役の菅田将暉は、「まあ彼なら、当然このぐらいはできるでしょう」ってレベル。悪くないねって程度でした。

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大江戸の好みとしては、もっと「才能の残酷さをめぐる物語」にしてほしかったですね。『アマデウス』の兄弟版みたいな感じに、弟の天才に気づいてしまった凡才の兄の嫉妬と焦燥と・・・みたいなドラマを観てみたかったです。

(以降ネタバレあり) ラストの「GReeeeNみたいな曲を作れるようになれ」という父親の言葉は、つまり「わかっていた」んでしょうね、あの時点で。それをオヤジなりに照れて表現したってことなんでしょうね、きっと。

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2017年3月13日 (月)

「ゲゲゲの人生展」&「『君の名は。』展」@松屋銀座

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松屋銀座で同時開催中の『追悼水木しげる ゲゲゲの人生展』と『「君の名は。」展』(どちらも~3/20)を観ました。

『ゲゲゲの人生展』は、思ったより充実の内容でした。箱入りのへその緒に始まって、各界著名人の追悼メッセージまで。つまり水木しげるの生涯を、まんべんなく紹介する回顧展。貴重な戦時中の品々やハガキ、仕事部屋の再現などもありました。鬼太郎がTV化される前の、「ダークで怪奇な水木しげる」もちゃんと紹介してくれてます。もちろん戦争の悲惨さを告発する魂の作品も。

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小生はぜんぜん水木ファンじゃないのですが、面白く興味深く見せてもらいました(あの「♪ぺったら ぺたらこ ぺったっこ・・・」の歌もさりげなく紹介されていたのが良かったですね)。いつも通り、出口のグッズ売場の充実ぶりも凄かったです。

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そして隣の会場では、『「君の名は。」展』を開催。企画書や絵コンテ、設定資料などに加えて、新海誠監督のインタビューなどの映像も。

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出口付近にはあの教室の黒板が再現されておりました(この前で写真を撮ることができます)。

個人的には、できればあの「口噛み酒」に関する何らかの研究展示が欲しかったところなのであります。

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2017年3月12日 (日)

「彼らが本気で編むときは、」:日本に必要な映画

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映画『彼らが本気で編むときは、』は、そくそくと心に沁み入るようなビューティフルな作品。荻上直子監督の作品としては、これまでのオフビートまったり系から転じて、しっかりと物語を語っています。

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トランスジェンダーの主人公を扱った初めてのメジャー日本映画なのではないでしょうか? 極めて真摯な姿勢で、でもクソ真面目に堕することなく、良質の映画となっています。適度のユーモアと、適度の感動(決して「泣かせ」には走りません)、そしてナチュラルな社会性(性同一性障害の他に、ネグレクトにも言及しています)。うーん、良いです。日本に必要だった映画です。

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この物語の重要なポジションに小学生の女の子(トモ)を配したことが、奏功してます。観る者は彼女と一体化して、リンコさんを好きになってしまうのです。そして自分の中に多かれ少なかれ存在する偏見や特別扱いする心が、映画を観た後ではかなり是正されたことに気づくのではないでしょうか? 成熟した幸福な社会とは、少数派を排除しない社会なのだと思います。 そして対象がどうであろうと、人を愛することは素敵なことに違いありません。

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本作の生田斗真は決して「名演」ではないような気がしますが、リンコさんの「人としての魅力」がじわっとにじみ出てくるところがさすがです。

毛糸で作ったリンコさんの「煩悩」が、あたかも往年の草間彌生のモチーフみたいでした。その数「108」のことを、トモが「消費税込み?」とか言うところがおかしかったなあ。

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