2023年8月31日 (木)

「フィルムメーカーズ24 ホン・サンス」    #ホンサンス #ホンサンスの本ざんす #筒井真理子 #キムミニ

Dsc_00523_copy_768x1086 『フィルムメーカーズ24 ホン・サンス』(オムロ)を買いました。久々に買った映画本かな。筒井真理子さんが責任編集ってことになっております。

近年、作品のクォリティーも上がり、ますます唯一無二の道を往く韓国の名匠(と言っていいのかは迷うところですが、「巨匠」だともっと違うし)=ホン・サンスの本ざんす。

「遅れて来た」ホン・サンス・ファンの大江戸(まだ12作品しか観ていない)としても、大いに楽しめました。ホン・サンスに関する評論やこれまでの30作のレビュー。さらには、ホン・サンスの『自由が丘で』に出演した加瀬亮と筒井真理子との対談だとか、筒井さんと深田晃司や町山広美との対談、荒井晴彦へのインタビューなどもあり、充実の内容です。

ああ、あの酒飲んでぐだぐだ話してるだけなのに、ずーっと観続けたくなる感じ。男と女の会話の表と裏のスリル。急で雑でバカみたいなズーム。いつもおなじみの俳優が居並ぶ画面。そして、キム・ミニ! うーん、やっぱりいいなあ、ホンサンス。映画館でもっと旧作の特集上映とかをしてもらいたいものです。

 

| | コメント (0)

2023年8月29日 (火)

「ブルーナ絵本展」@松屋銀座    #ブルーナ絵本展 #ディックブルーナ #ミッフィー #ボリス #松屋銀座 

Dsc_11486_copy_768x486 松屋銀座で明日(夕方5時)まで開催中の『ブルーナ絵本展』を鑑賞。ここでディック・ブルーナさんの展覧会を観るのは、何度目でしょう。でも今回は、同じ8階でも天井が低く狭い方の会場で、小じんまりと開催。しかし観ているうちに、謎が解けました。

今回のメインはミッフィーちゃんじゃなくて、くまのボリスだったのですね。確かにメイン・ビジュアルもボリスだし、「ミッフィー展」じゃなくて「ブルーナ絵本展」なのでした。作品サイズも小さいものがほとんどです。

Dsc_11477_copy_768x1282 と言っても、ミッフィーもその他のキャラも出て来ます。最初のコーナーに年代別のブルーナさんの絵本(みんな例のサイズで正方形)がずらりと展示されているのですが、最初は1953年。なんと70年前です。そして最初のミッフィーえほんは1955年。そうかー、うさこちゃん、いい年なんだー。

珍しめな童話の絵本(『シンデレラ』『赤ずきん』など)ともあるし、ディック・ブルーナの4色(+2色)とか、涙や窓や雪などのモチーフに注目した切り口とか、創作の秘密に迫るコーナーもありました。そこらの編集がいいので、結構大人が楽しめる内容となっておりました。

そして、例によって会場出口の物販コーナーはかなり幅広いブルーナ・キャラクター・グッズが揃っていて、買う気のファンなら目移り&わくわくドキドキ必至なのでしたー。

| | コメント (0)

2023年8月 8日 (火)

「オシムの遺産(レガシー)」:真の教育者    #オシムの遺産 #オシムのレガシー #イビチャオシム #オシム

Dsc_11475_copy_600x816 島沢優子『オシムの遺産(レガシー)』(竹書房)を読みました。著者はスポーツ及び教育系のジャーナリスト。

これまで『オシム語録』をはじめ多くのオシム本で語られてきた名言・至言の数々はよく知られているわけですが、それ以外の言葉を授かった人たちもたくさんいたんだなあとわかる本です。登場するのは、佐藤勇人、羽生直剛ら(元)サッカー選手、小倉勉、祖母井秀隆らJEFの関係者、通訳の間瀬秀一と千田善、さらにはサッカーのコーチ、子供たちのサッカー指導者、チームドクター、スポーツ関連の研究者など多種多様。それらの人々が、自分とオシムさんの思い出や、残された言葉を語るのですが、どの人もオシムへの愛と敬意がとても強いってことが、よーくわかるのです。そして、オシムと接していかに彼らが成長し、変わったかということも。

オシムの言葉や、オシムの指導法、オシムの思想などが、話者からその周辺の人々や次の世代に継承されていくこともわかりましたし、そうは言っても人は忘れるものですし、「伝言ゲーム」のように変わってしまうことは避けられないものですから、こういう本を作ってその本来の姿を残すことの意義は大いにあると思います。

これまで以上に多方面から、イビチャ・オシムという人の素晴らしさ、大きさを教えてくれる一冊です。あの人は、本当に最高の「教師」ですよね。

| | コメント (0)

2023年6月21日 (水)

「小説家の映画」:いつも通りの豊かな面白さ!    #小説家の映画 #ホンサンス #キムミニ #筒井真理子

1_20230621223601 ホン・サンスの新作『小説家の映画』を試写会で観ました。いやー、92分まるまるホン・サンス。ファンの大江戸としては、大変満足いたしました。

いつも通りに、何も大きな事は起きず、登場人物たちはしゃべって、飲んで、酔っぱらって…。でもその時間が実に豊かで、観ていてまったく飽きません。長回しの撮影で、普通の人生の一部分を切り取っただけみたいな映画なのに、なんでこんなに面白いんでしょうか?

今回はダイアローグの端々に、ホン・サンスの思いみたいなものが強く感じられました。「他人の人生の決断をとやかく言うものではない」とか、「ドキュメンタリーみたいに見えても、そうではない」とか、「配役が決まってから、物語を考える」とか、「物語は重要ではない」とか…。

ほぼモノクロ。確かに色は不要です。でも、終盤にちょこっとだけカラーの映像が挟み込まれます。その色彩のまたハッとするほど美しいこと。今回もあのズームは出て来ますが、昔ほど極端(ヘンテコ)ではありません。まあ、ホン・サンスも還暦を過ぎて大人になったってことですかね? 

いずれにしても、味わ深い名作でした。こういう味は、絶対ファースト映画や倍速視聴では味わえないのです。その「時間」こそが映画なのです。 キム・ミニも相変わらず魅力的でした。

 

Dsc_13176_copy_1353x929 実はこの試写会、終映後に女優の筒井真理子さんと矢田部吉彦氏のトークイベントがついておりまして、その終わりに観客も撮影を許されました。はい、こんな感じ。筒井さんは、6月28日発売の『フィルムメーカーズ24 ホン・サンス』の責任編集をなさっているのだそうです。楽しみです。買います。

| | コメント (0)

2023年5月15日 (月)

「映画を早送りで観る人たち」を今ごろ読む    #映画を早送りで観る人たち #稲田豊史 #タイパ #映画館原理主義者 #文化を殺すな   

Dsc_13046_copy_600x887 1年ほど前に発行され、けっこう話題になっていた『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ―ーコンテンツ消費の現在形』(稲田豊史・光文社新書)をようやく読みました。興味はあったのですが、ここまで遅くなったのには理由があって・・・なんか、読むといやな気分になりそうな気がしたからなのです。

で、やっぱりけっこう心が波立ちました。ざわざわ来るものがありました。早送り、倍速視聴、飛ばし見、ファスト映画、事前のネタバレチェックなどなど近年顕著な現象面から始まり、流行語にもなった「タイパ(タイム・パフォーマンス)」という考え方、失敗したくない気持ちの強さ、セリフで全部説明しないとわからない人たち、評論が読まれない時代、SNSの影響力、共感強制力などなど、すべての指摘が興味深く納得性の高いものですが、それだけに無力感、敗北感が強いというか、遺憾を通り越して絶望的な気持ちになったのでした。

ダメだこりゃ、です。快適さ、楽さばかりを追い求めて、日本人が、人類が、知性と教養を捨てて、白痴化が加速していきます。「学ぶ」心がなくて、文化が死んでいきます。読み進めていくと、これは時代がそうさせているのであって、しょうがないことだってのも理解できます。小生だって、今十代、二十代を送っていたら、当たり前のようにそうなっていたでしょう。でも、現在の常識が当たり前ではない、少なくとも当たり前とは思っていない人たちがいることはわかってほしいなあ。自分と意見を異にする人の考えを尊重し、なぜそうなのかを想像力をフル回転させて考えてほしいと思うのです。

著者による「おわりに」の最後の言葉で、救われます。そう、やっぱり映画を早送りで観るのは、おかしなことなんです。作品や作った人への冒涜という前に、自分自分自身が損をし、自分を貶める行為であるとさえ思います。早送りどころか、配信で映画を観る行為すら認めたくない「映画館原理主義者」の大江戸としては、深くそう思うのであります。人類の文化を殺すな!と。

| | コメント (0)

2023年5月12日 (金)

「ユーチューバー」by 村上龍    #ユーチューバー #村上龍 #小説ユーチューバー 

Dsc_13045_copy_600x852
巷で村上春樹の『街とその不確かな壁』ほどには話題になっていない村上龍の新刊『ユーチューバー』(3月30日発行/幻冬舎)を読みました。650ページ超で結構時間がかかった前者に対して、こちらは本文最終ページのノンブルが169なのでというコンパクトな本なので、2日で読んじゃいました。

それぞれつながりのある4作の短編集です。明らかに村上龍本人がモデルである「70歳になったばかりの作家」と。彼をユーチューブに出そうとする「世界一もてない男」の間をぐるぐるしている話です。写真のように、腰巻には「自由希望そしてセックス」などと大きく書いてありますが、読んでみると「なんか全然違うじゃないの」って話です。

これまでの村上龍作品の暴力的でアクの強いギラギラ感とは、まるで違っています。一言で言って「枯れた」感じ。暴力描写もなければ、性描写もほとんどなし。年寄りの回想めいた昔話に終始しておりまして、さすがに「いったいどうしちゃったの?」って感じなのです。だって、「若き日からの女性遍歴を思い出せるうちに書き残しておこう」ってことのように思えちゃうのです。これで「ユーチューバー」なんてタイトルつけられてもね…。

春樹さんの新作にも、性描写のなさとやや枯れた味を感じましたが、こっちの方が極端です。村上龍作品のファンは、こういうものを求めていないと思うのですが…。もうすっかり「危険な作家」ではなくて、『カンブリア宮殿』のおじさんになってしまったってことですかね。

次作での捲土重来に期待するとしましょう。

 

| | コメント (0)

2023年4月26日 (水)

「街とその不確かな壁」ようやく読了    #街とその不確かな壁 #村上春樹 

Dsc_13028_copy_506x719 村上春樹の新刊長編小説『街とその不確かな壁』(新潮社)をようやく読み終えました。発売日の4月13日に買って、翌日から13日がかり。通勤の行き帰りの電車内でしか読まないから、まあそんなものなんです。「同じコストで長い間楽しめる」とも言えます。

もろもろ入れて672ページもある長編(本編最終ページのノンブルは655)ですが、あえて2巻分冊にしなかったのでしょうかね。3つのパートに分かれていて、普通の長さの第1部、やけに長い第2部、やけに短い第3部という構成。序破急ですかね。

面白いことは間違いなく、途中で何度か「村上春樹の文体を読むことの幸せ」をしみじみと感じました。物語の面白さってやつを味わえました。ただねえ…、終盤がもの足りなかったんですよ。これはこれで、「いかにも」「らしい」のですが、何かこれまで通り過ぎて、それを超える新しい何かはなかったですねー。まあ、それはないものねだりなのかも知れません。珍しくつけた「あとがき」で村上さんが書いているように(ボルヘスの言葉の引用)、「一人の作家が一生のうちに真摯に語ることができる物語は、基本的に数が限られている。我々はその限られた数のモチーフを、手を変え品を変え、さまざまな形に書き換えていくだけなのだ」ってことなんでしょうね。

今回は『1Q84』のように大きな話でも、『騎士団長殺し』のようにアクティブな話でもありません。抑制の効いた静謐な小説です。手触りは冷たくもあり、温かくもある。でも、その寓意は今一つ二つわかりにくかったなあ。果たして何が言いたかったのかと考えてみても、自分ではどうにもピント外れな答しか導き出せません。あ、それと、いつものように生々しい性描写はありませんでした。

6年ぶりの長編小説なのですが、村上さんは今74歳。次もまた6年後だとしたら、80歳ですよ! 80歳の村上春樹がどういうものを書くのか、それはかなり興味深いものがあります。でもまあ、鳥は同じ歌を歌い続けるのでしょうね。

| | コメント (0)

2023年3月31日 (金)

「変な家」:キャッチーだけど…    #変な家 #雨穴 

Dsc_12456_copy_600x861 2021年夏に発行されて、以降昨年あたりに新聞広告などで気になっていた雨穴(うけつ)の小説『変な家』(飛鳥新社)を、ようやく読みました。何しろ40万部突破で映画化決定と、帯にも書いてあるぐらいですからね。それに、なんか気になるじゃないですか。第一印象は、かなりキャッチーです。

でもねえ、…ダメでした。有り体に言って、無理矢理すぎてバカみたいです。うーん、なんか中学生が書いたみたいというか、プロットからも文章からも知性が感じられませんね。

そもそもこれ小説なの?って感じで、会話部分はすべてシナリオのような会話体になっているのです。「筆者 ○○○○○・・・   栗原×××××・・・」みたいな感じで。会話文を小説の表現に仕立てる文章力がなかったのかも知れません。潔い割り切りと言えましょうか…。それ以外の文章にも、小説としての味とかコクとかは一切ありません。説明するだけみたいな文章なのです。

(以降少々ネタバレあり) 発想自体は面白いし、キャッチーなのです。最初の数ページでぐぐっと引き込むところなんかは見事なもんです。でもその後の展開とか結末とかが、「え?そんな方向に行っちゃうんですかい?」「横溝正史ですかい?」って感じに、バカバカしくもおどろおどろしくて古めかしいのです。終盤はかなりあきれながら読んでおりました。

取り柄はポンポンとあっという間に読めちゃうことでしょうか。無駄な時間をたくさん使わずに済むことは確かです。

これの映画化ねえ…。だいたいどんな感じか見えるようですね。作る人も、観る人も、お疲れさまです、と今から言っておきます(大江戸は、こわいもの見たさで観てしまうかも知れませんです)。

 

| | コメント (0)

2023年3月 8日 (水)

「本の森ちゅうおう」がステキ    #本の森ちゅうおう #中央区

Dsc_12332_copy_802x576 中央区の八丁堀駅そば、新富町駅からもほど近い場所に昨年12月4日にオープンしたのがこの施設、「本の森ちゅうおう」です。現時点ではまだ利用者も少なく、「穴場」です。

Dsc_12322_copy_907x576 「本の森」という名が示す通り、中心となるのは図書館。中央区役所の隣にあった京橋図書館が引っ越してきたんですよね。そこに郷土資料館をくっつけて、プラスアルファの要素も加えたのが、この建物。平らな街中に突如として「丘」が出現したかのようなイメージです。

Dsc_12312_copy_958x576 1階の入口脇にはカフェもあります。おしゃれですね。ランチもできます。

Dsc_1237_copy_324x576 とにかく外観が独特です。目を惹きます。ガラスを多用していますが、冷たい感じはなく、むしろフレンドリーな感じ。

Dsc_1238_copy_1024x576 建物の中は撮影を遠慮しましたが、ステキです。広々としてて、トイレもキレイ。1階の奥には多目的ホールがあって、大江戸が行ったときには歌舞伎の衣装や舞台美術の展示を行っていました。

そのさらに奥には郷土資料館があります。現物資料のほかにデジタル展示もあるのが今っぽいところ。中央区のいろんな街の歴史がわかる写真を見ていけたりして、楽しいです。床面の古地図もナイス。

Dsc_1235_copy_1024x576 2階には「つどいの森」、6階には「屋上庭園」(展望台まであります)があるのも、憩いのスペースとしてステキです。図書館の中にも、会議スペースや自習スペースや小さな子と遊べるスペースなんかがあって、本当に「使える」「楽しい」施設になっています。やるじゃん、中央区。

Dsc_12292_copy_323x576 コアとなる図書館は2階から5階の4フロアで、これまた見事。フロアごとに利用者層を想定した構成になっているそうで、子供からお年寄りまで、それぞれが使いやすく楽しい作りになっています。

Dsc_1236_copy_1024x576 確かに本の置き方、見せ方からして、旧来の図書館とは違うエンタテインメント性が感じられます。そして、とにかく気持ちの良い空間なんです。いやー、こんな施設に無料で入れるってのは随分とありがたいことです。随分と中央区さんを持ち上げちゃいましたが、良いことをしたら褒めてあげるべきだと思うのです。 ブラボー!

 

| | コメント (0)

2023年3月 3日 (金)

「800日間銀座一周」by森岡督行    #800日間銀座一周 #森岡督行 #銀座

Dsc_12523_copy_540x725 文春文庫の『800日間銀座一周』(文庫オリジナル)を読みました。昨年4月の刊行です。著者の森岡督行氏は銀座一丁目(と言ってもかなり新富町寄りですが)の鈴木ビル内にある森岡書店の店主。彼が銀座各所を歩いてリポートするweb記事を集めたもので、資生堂のWEB『花椿』の連載記事だったものを集めたエッセイ集となっております。

時期的には2020年5月から21年12月の間の記事ですが、連載前の記事から数えて800日ってことのようです。40のエッセイそれぞれに、森岡氏自身による味のあるイラストレーションと、伊藤昊による1964年頃の銀座の写真が添えられています。

銀座好きにはたまらない本です。和光、鳩居堂、アンルシャルパンティエ、ライオン、はち巻岡田、木村屋、ソニーパーク、月光荘、中村活字、よしやなど章題に入っている店名を見るだけでも気分が上がるってもんですよね。

第1章で、1933年の1日を想定した銀座逍遥のコースとして、鈴木ビル→煉瓦亭→米倉(理容)→千疋屋→資生堂→ルパン→チョウシ屋といったコースなのですが、今現在でも同じ店をたどることができるという事実に感嘆しました。これが銀座なんですよ!

このエッセイの素晴らしさは、銀座の地理を二次元的に追うばかりではなく、そこに銀座の歴史という次元も交わっている三次元的な展開です。それができるし、また、それをやらなけらば意味がないのが、銀座という街の奥深さなのです。

欲を言えば、各章とももう少したっぷり読みたかった、もっと詳しく書けたろうに(字数制限がうらめしい)ってこと。でも大江戸としても、いろいろと勉強になりました。

| | コメント (0)

より以前の記事一覧