「TAR ター」:上質で上等な映画 #TAR #ター #映画ター #トッドフィールド #ケイトブランシェット
映画『TAR ター』は、上質な、上等な映画。メジャーな娯楽映画の枠内でこういう作品が作れるってのは、さすがアメリカ映画はまだ死んじゃいないってところです。「わかりやすさ重視」のメジャーな日本映画からは絶対出て来ない作品でしょう。その表現は、飛ばし見や倍速視聴では絶対伝わらないようにできているのです。
とにかく親切に「皆まで語る」ことはしません。部分を描いて、それで観客が想像して理解に至るように作られています。その塩梅が絶妙であり、逆に言えば「観客を信頼している」作り方なのだと思います。観る方も信頼に応えて、集中して頭を働かせる必要があります。でも映画を観る喜びって、そういうことではないのでしょうか。
『イン・ザ・ベッドルーム』『リトル・チルドレン』のトッド・フィールド監督が16年ぶりに撮った第3作ということです。見事な演出力であり、音楽映画とかサイコホラーとか転落のドラマとか、そういったたジャンル分けを超越した力作です。
その原動力となっているのが、ター役のケイト・ブランシェット。パワフルに、繊細に、リアルさと狂気を往還しながら、圧巻の演技を見せつけます。その上、指揮! ドイツ語! 今年のアカデミー主演女優賞は、『エブエブ』のミシェル・ヨーでしたが、改めて「なんで?」と笑っちゃいます。このケイトを超える人なんていませんもん。彼女のキャリアの中でも、『ブルー・ジャスミン』と並ぶ最上級の演技です。
2時間38分(「キネ旬」では2時間39分の表記)と長い作品ではありますが、ゆったりペースの序盤を除けば、長いと感じることはありません。むしろ、ディテールや伏線や映画表現の緻密さをきちんと味わうために、もう一度観たいとすら思いました 。 ドイツ生まれの撮影監督フロリアン・ホーフマイスターによる、怜悧な映像も見事です。
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